ギルバート以前に、
磁石や方位磁針について知られていたこと


 古代ギリ シャ人たちは、鉄を引き付ける不思議な石、ロードストーン(lodestone または loadstoneと綴られます)の存在を知っていました。小アジア(現在のトルコの付近)のマグネシアという町の近くでそのような石がいくつも見つかっ たた め、この町の名前が、「マグネット」あるいはそれから派生したすべての言葉の元となったと言われています。

 昔の中国でも、天然磁石や、それにより鉄が磁化されることなどが知られていました。西暦1000年頃、水を張ったお盆に磁石の針を浮 かべると、それは常に南を指すことを中国人は発見し、方位磁針(指南針)な る物を作りました。 これはすぐに、アラビアを通してヨーロッパにももたらされました。磁石を用いた羅針盤は、陸地が見えない時、星が見えない時などでも船が安全に航行するの に欠 かせないものとなりました。磁石はまた、携帯型日時計の中にも組み込まれて、正確な時刻を知るために方向合わせをするのにも使われました。

 鉄を引き付けたり、南北を指すという磁石の奇妙な性質の原因は、全くの謎でした。例 えば、ニンニクの強烈な匂いが磁石を狂わせるという迷信のために、船にニンニクを積むことが許されなかった時代もあるのです。コロンブスは、夜空で唯一動 かない 星、北極星を特別な星と考え、北極星には磁石を引き付ける力があって、そのために方位磁針は常に北を指すのであろうと考えていたと言われています。

地磁気が北を向くと同時に、下を向いていることを表す絵
        当時分かっていたこととして、2点、指摘しておきます。一つは、方位磁針は正確に北あるいは北極星の方向を指すのではなく、わずかに東にずれた方向 を指すと いう事実です。コロンブスは、大西洋を航海した時に、方位磁針の真北からの偏差が場所と共に次第に変化したと記録しています。コロンブスが1498年にハ イチで書いた書簡によると、磁石の真北からの偏差が、東向きのズレから西向きのズレに変わったとなっています(そして、それは事実とも符合するのです)。 ただし、コロンブ スの記録した方位磁針の偏差の測定精度については、まだ議論の余地があるようです。

        二つ目は、方位磁針に働く力は、全くの水平向きではなく、やや下を向いているとい うことです。もし、磁性を付ける前の針が回転軸の周りにバランスするように作られているとしたら、磁性をつけた後では、北を指す方の端が少し下を向くの で、針の先を少しカットしてバランスをとるようにしないと、針は水平にならないのです。この事実は、イギリスのロバート・ノーマンによって発見され、 1581年 に出された著書『新しい引力』の中で発表されました。

        ノーマンは、南北方向の鉛直面(子午面と呼ばれます)内で針が自由に回転できるように水平軸で支えた方位磁針を用いました。そうすると、方位磁針の北を指 す方の端は、確かに北を指すことは指すのですが、針はもはや水平にはならず、その代わりに、急な角度で下を向くのです。このことは、地磁気力が水平向きで ないことを示しています。これが、「地磁気伏角」と呼ばれるものです。


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原著者:   Dr. David P. Stern
原稿更新日 2001年11月25日