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電離層電気伝導度について

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3つの電気伝導度    電気伝導度の式    2次元伝導度
電離層電気伝導度高さ分布モデル計算    全地球的電離層電気伝導度モデル計算

はじめに
電離層はおおむね地上60〜1000kmの高さで、 中性粒子が主に太陽紫外線によって荷電粒子 (電子と正イオン) に電離されるため、地球上空で一番 (自由)電子密度が高い領域である。 ここでは電波が反射、吸収、屈折されるほか、電流が流れやすくなっていて、 数日以下の速い地磁気変化を引き起こす電流のうち多くが流れている。 オームの法則はほぼ成り立つが、電気伝導度は地磁気の影響で非等方になり、 平行、ペダーセン、ホールの3伝導度が基本的な伝導度として定義されるほか、 場合により2次元伝導度も用いられる。 それぞれの意味は以下の通りであり、単位はS/m (=1/(Ωm))、 高さ積分されるとSである。


平行伝導度 (Parallel conductivity)
磁力線に平行方向への電気伝導度を平行伝導度という。 縦伝導度 (Longitudinal conductivity) あるいは直接伝導度 (Direct conductivity) ということもある。 これは磁場がないときの伝導度と同じで、 ペダーセン、ホール伝導度よりも大きく、 特に電離層上部では数桁以上大きくなる (右下図参照)。
σ0と略記される。

ペダーセン伝導度 (Pedersen conductivity)
磁力線に垂直な電場による電場方向への電気伝導度をペダーセン伝導度という。 これは電離層より下の、 荷電粒子と中性粒子の衝突が極めて頻繁な領域では平行伝導度と一致する。 高さが高くなるにつれて荷電粒子の密度が増大することと中性粒子との衝突が減少するために高さ110-130kmくらいまでは増加するが、 さらに高い領域では衝突が希になることにより荷電粒子は電場と磁場双方に垂直な方向へ電場ドリフトするのみで、 磁力線に垂直な電場の方向にはほとんど動かなくなるために小さくなる。
σ1と略記される。

ホール伝導度 (Hall conductivity)
磁力線に垂直な電場による、 磁場と電場双方に垂直方向への電気伝導度をホール伝導度という。 荷電粒子が電場と磁場双方に垂直な方向へ電場ドリフトするのが原因であるが、 電場ドリフトの向きは電荷の符号によらないため、 電離層のように全体としては中性と見なせる媒質では、 正負両荷電粒子のドリフト運動の差がホール伝導度として現れる。 高さ90-130kmくらいの領域では、 正イオンは中性粒子と頻繁に衝突するためドリフトが妨げられるのに対し電子はより自由にドリフトするためホール伝導度が大きく、 向きは磁場の向きから電場の向きへ右ねじを回したときに進む方向となる。 これより下の領域ではそもそも荷電粒子密度が小さいことに加えて衝突により電子の電場ドリフトも妨げられるため、 上の領域では衝突が希で電子と正イオンがほとんど同じ速さでドリフトするため、 どちらでも非常に小さい。
σ2と略記される。

電離層での電場と電流の関係図
電離層での電場電流の関係図


電離層電気伝導度の高さ分布
昼間の電離層電気伝導度の高さ分布例
黒線、赤線青線がそれぞれ平行、ペダーセンホール伝導度を示している。 電気伝導度は場所、時刻、季節、太陽活動度等により変化し、 例えば夜間には小さく特に電離層下部では数十分の1になり、 また、太陽活動度の変化に伴い数倍から10倍程度変化する。

電離層電気伝導度の式
電離層での上記3伝導度はMaeda (1977) により3流体近似に基づき以下の式で表される:

σ0 = (ne*e2)/(mee)
σ1 = σ0*((1 + κ)*νe2) /((1 + κ)2e2 + ωe2)
σ2 = σ0ee /((1 + κ)2e2 + ωe2)

ここで、
κ = (ωei)/ (νei),    νe = νen + νei,    νi = νin

ne: 電子密度
νen: 電子-中性粒子の衝突周波数
νei: 電子-イオンの衝突周波数
νin: イオン-中性粒子の衝突周波数
ωe: 電子の旋回角周波数
ωi: イオンの旋回角周波数
e: 素電荷 (1.602*10-19 C)
me: 電子の質量 (9.109*10-31 kg)
文献:
Maeda, K., Conductivity and drift in the ionosphere, J. Atmos. Terr. Phys., Vol.39, 1041-1053, 1977.

2次元伝導度 (Two dimensional conductivity)
電離層は一般に鉛直方向のスケールが水平方向のそれと比べて小さいので、 鉛直方向には無限に薄い薄層として扱われることがあり、 そのような扱いをしたときの伝導度を2次元伝導度という。 層伝導度 (Layer conductivity) ということもある。 具体的には、磁北をX、磁東をYとした座標系で、 水平面内の電場と電流密度ベクトルをそれぞれ (EX,EY)、(jX,jY)として、
jX = σXXEX + σXYEY
jY = -σXYEX + σYYEY

と表現したときのσXXYYXYであり、 上記3伝導度σ0, σ1, σ2地磁気伏角 Iを用いて、

σXX = (σ01)/(σ1*cos2I + σ0*sin2I)
σYY = (σ01*sin2I + (σ12 + σ22)*cos2I )/(σ1*cos2I + σ0*sin2I)
σXY = (σ02*sinI)/(σ1*cos2I + σ0*sin2I)

とあらわされるが、その性質上高さ方向について積分された値 (それぞれΣXX, ΣYY, ΣXYと略記される) がより多く用いられる。