News and Announcements [in Japanese]
地磁気センターニュース
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地磁気世界資料解析センター News No.132 2012年3月29日
1.新着地磁気データ
前回ニュース(2012年1月27日発行, No.131)以降入手、または、当センターで入力したデータの
うち、オンラインデータ以外の主なものは以下のとおりです。
オンライン利用データの詳細は (http://wdc.kugi.kyoto-u.ac. jp/catmap/index-j.html) を、観測所名の省略
記号等については、観測所カタログ (http://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/catmap/obs-j.html) をご参照ください。
また、先週の新着オンライン利用可データは、(http://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/wdc/onnew/onnew-j.html)で
御覧になれ、ほぼ2ヶ月前までさかのぼることもできます。
Newly Arrived Data
(1)Annual Reports and etc.(off-line)
NGK (Jan. - Feb. 2012), SFS (2010)
(2)Kp index:(http://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/kp/index-j.html)
Jan. - Feb., 2012
2.AE指数とASY/SYM指数
2012年1月-2月のASY/SYM指数を算出し、ホームページに載せました
(http://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/aeasy/index-j.html)。
3.PDF版観測所データ全カタログ 2012年2月が利用可能となりました。
1昨年印刷出版されカタログ、No.29/2010年2月版の再改訂版で、それ以降到着の観測所データの追加の
ほか、観測所年平均値の変更などの観測所情報の更新もなされています。ただし印刷出版予定はありません
ので必要な場合には下記PDFファイルをダウンロードして印刷願います。
http://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/wdc/pdf/Catalogue/Catalogue.pdf
4.電離層電気伝導度モデルのIRI2012への対応
当センタホーム掲示でサービスしています電離層電気伝導度モデル
http://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/ionocond/sigcal/index-j.html
及び
http://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/ionocond/sightcal/index-j.html
が、IRI2012対応となりました。IRI2012での変更点について詳しくは下記のページをご参照ください。
http://cedarweb.hao.ucar.edu/wiki/index.php/Community:Email_05bjan12
5.「High-Time Resolution Geomagnetic Indices AE,ASY,Wp, and SYM、No. 1-3」の刊行
2009年-2011年のAE,ASY,Wp,SYM指数を載せた「High-Time Resolution Geomagnetic Indices AE,ASY,Wp,
and SYM」のNo.1からNo.3までができました。これらの指数については次項をご参照ください。
PDF版はそれぞれ15-16MBありますが、以下のところからダウンロードできます。
2009年:http://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/wdc/pdf/indexplot/AE-ASY-Wp-SYM_2009.pdf
2010年:http://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/wdc/pdf/indexplot/AE-ASY-Wp-SYM_2010.pdf
2011年:http://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/wdc/pdf/indexplot/AE-ASY-Wp-SYM_2011.pdf
冊子体はまもなく関係機関に配布予定ですが、
ご希望の方は、残部が多少ありますので郵送先
を明記の上、当センターにお申し込み願います。
残部が無くなりました場合はご容赦願います。
なお、このデータブックを研究に利用し、論文
等を出版されます場合には、参照文献名の後に
ISSN番号(ISSN 2186-8824)を記載していただき
ますようお願いします。
6.上記データブック掲載の地磁気指数に関する説明
・ Wp指数について
低緯度で地磁気の変動を観測していると、周期40-150秒の減衰振動が時に現れます。この地磁気の変動は
「Pi2地磁気脈動」と呼ばれており、サブストームの発生(オーロラ爆発、磁気圏への高エネルギー粒子流入、
磁場双極子化など)に深く関連していることが1960年代から指摘されてきました。Wp指数は、Pi2地磁気脈
動の周波数帯のパワーを1分ごとに表したもので、サブストームの発生を検出するための指数として開発さ
れました。
Wp指数の算出の際には、(1)Pi2地磁気脈動の振幅が夜半球では大きく、昼半球では小さくなること、(2)Pi2
地磁気脈動に近い周波数帯にパワーを持つPc3-4地磁気脈動の活動が昼半球では活発になること、を考慮し、地
球を経度方向にカバーする低緯度観測所ネットワークのうち、各々の時刻において夜半球に位置する観測所の
データのみを使っています。現在、低緯度観測所ネットワークは図1、表1に示した11観測所から構成され
ています。算出方法の詳細は、当該データブックの最初に示してあります。
<図1:Wp指数算出に用いた11観測所の位置。太点線で描かれた円は、地磁気緯度20°と50°を示している。>
・AE指数・ASY指数・Wp指数の比較について
よく知られているように、AE指数は12か所の高緯度地磁気観測所のデータを用いて、電離層に流れるオ
ーロラジェット電流の強さを表そうとした指数です。サブストーム発生時には、強い西向き電流が生じ、
地磁気には高緯度ネガティプベイと呼ばれる変動(ALの減少)が現れます。そのため、この指数はサブス
トームの発生を判断するために広く利用されています。
ASY指数は6か所の中緯度地磁気観測所のデータを用いて、中緯度における磁場変動の経度方向に軸非対
称な成分を表そうとした指数です。軸非対称な地磁気変動を作る物理現象は様々なものが考えられますが、
サブストームが起こった時に生じるウェッジカレントはとりわけ大きな寄与をもたらし、地磁気に中緯度
ポジティブベイと呼ばれる変動を作り出します。したがって、ASY指数の急激な増加を見出すことにより、
サブストームの発生を検出することができます。
Wp指数は上にも述べたように、低緯度Pi2地磁気脈動の夜半球におけるパワーを表そうとした指数で、
その急激な増加はサブストームの発生と関係があるとみなすことができます。したがって、AE指数・ASY
指数・Wp指数を同時に見較べることで、より精度よくサブストームの発生を検出できると考えられます。
図2に示したのは2010年3月11日のAE指数・ASY指数・Wp指数を並べたものです。
<図2.:2010年3月11日のAE指数、ASY指数、Wp指数、SYM指数。>
(一番下のSYM指数は、Dst指数とほぼ同じように中緯度における軸対称な磁場変動を表すもので、磁気嵐
を調べるための指数です。)0015UT、0530UT、1800UTごろに3種類全ての指数が変動を示しており、高い信
頼度でサブストームが発生していたと判断できます。また、0900UTごろにはAE指数、Wp指数だけが変動
を示しており、サブストームと考えられるが、それほど大きな規模ではなかったか、またはウェッジカレン
トが経度方向にそれほど広がらなかった例が見られます。1130UTごろのイベントは、Wp指数だけが増加し
ており、疑似(pseudo)サブストームであった可能性も否定できません。このように、3種類の指数は、緯度
や表そうとしている物理現象が異なるため、サブストームに対する反応感度や反応時間が異なることを念頭
に置く必要があります。
データブックには2009年から2011年の各年ごとに、3種類の指数を図2のフォーマットでプロットしてあ
ります。デジタルデータについては、AE指数、ASY指数は地磁気センターのホームページ
(http://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/aeasy/index-j.html)
から、Wp指数はS3ホームページ
(http://s-cubed.info)
からダウンロードできるようになっています。また、S3ホームページでは、静止軌道衛星のデータもプロ
ットに加えられており、サブストームの発生をより多角的に調べることができます。
7.Magnetotelluric法の源流、平山 操の業績
Magnetotelluric 法は、地電位差及び地磁気の変化の観測から、地球内部の電気伝導度を求める方法である。
それは Cagniard(1953)に始まると考えられてきた。ところがその原型が平山 操 (1934)にあることが指摘
された。小川康雄氏(東京工業大学)はConductivity Anomaly 研究会のメンバ−宛てのe-mailに「Nabighian
博士とKaufman博士から、昭和9年に出版された平山(1934, 氣象集誌)という日本語の論文があることを教え
てもらいました。サハリンにあった豊原地磁気観測所における地磁気地電流の解析を通じて、MTの理論が展
開されています。これは世界初のMT理論の論文と言えると思います」と記した。
研究会のメンバ−からは「MTの理論を世界で初めて
導いたのは実は地磁気観測所の先輩であった事実を初め
て知りました」、「ありがとうございます。興味深く拝
見いたしました。私たちも頑張らないと」といった反応
があったのをみても、研究者を鼓舞する力を発揮した。
Nabighian博士とKaufman博士にこの事実を知らしめたの
は、Zhdanov(2010)だったことが、村上英紀氏(高知大学)
の調査で分かった。
Magnetotelluric法の出発点は、地表面での互いに直交する電場と磁場の振幅の比(magnetotelluric
impedance)をとり、これから地下の電気伝導度を推定するところにある。平山 操 (1934) は地表面を無限に
広い平面と考え、x軸を北に、y軸を東に、z軸を鉛直下方にとる直交座標系によりマクスウエルの方程式を書いた
(平山は cgs emu 単位系を用いている)。
電場の南北成分はゼロ(Ex = 0)、磁場の東西成分と鉛直成分はゼロ(Hy = 0, Hz = 0)とする。
ここで、κは電気伝導度、μは誘磁率である。 とおいて解を求める。
ただし、pは時間的減衰、m はy方向の波長をλとして、qは角周波数、
αは場の鉛直方向の変化をあらわす。減衰はないとしてP = 0 とする。さらにm は無視できるほどに小さい
とした。すなわち、波長が非常に長いとした。こうして平山は を導いた。これはまさに、
今日でもMagnetotelluric 法の解説の導入部にでてくる式である。この式は単純でありながら、
Magnetotelluric法のエッセンスをよく表現している。
この式を MT formula by Cagniard(1953)と書いている教科書がある(Treatise on Geophysics, 2007)。
平山 操(1934) からほぼ20年、その間に第二次世界大戦をはさみ、その達成は忘れられていた。Zhdanov
(2010) が今それを発掘したのは、いささか驚きである。
平山が勤務した臨時豊原地磁気
観測所では、地電流の観測も行って
いた。MT formula に到達した平山
は、それらの観測を用いて電気伝導
度κを求めることができたはずであ
る。そのようにしたならば、名実と
もにMTへの最初の一歩を踏み出した
ことになったであろう。ところが平
山はそのようにはしなかった。
平山は、いったんは無視できるほ
ど小さいとしてゼロにしたmを復活
させて、回りくどいやり方でそれを
推定した。すなわち波長の推定をし
たのである。その際、電気伝導度は
地表近くでの測定結果の報告を参照
して5×10-14 emu を採用している。
周期が10分から80分の間の10分ごと
に波長λを決めている。それは1300
kmから1900kmに分布する。
平山(1934)が波長に目標をおいたのは、Terada (1917) に促されたためである。震災予防調査会による
地磁気観測事業の一環として、1910年、三崎の油壺に地磁気の観測施設が設置された。寺田寅彦は1911年
から1914年に施設が廃止されるまで所長の任にあった。寺田は観測で得られた地磁気の脈動の記録を解析した。
地電流は観測していないので、もっぱら、脈動に際しての地磁気南北成分と鉛直成分の振幅の比
のデ−タを考察した。寺田の関心は地磁気脈動の原因にあった。当時それは、上層大気中を流れる電流系に
よるものと思われていた。寺田もその線に沿った検討を行っている。
それとともにTerada (1917)は、変化する磁場によって地中に誘起される電流の影響をも考慮しなければ
ならないと考えた。地表面にx軸、y軸、鉛直下方にz軸をとる直交座標系でマクスウエルの方程式を書き、
その解を求めた。その道筋は平山(1934)と同じである。事実は平山が寺田に倣ったというのが真実であろう。
しかし寺田が利用できたのは地磁気のデ−タだけだったので、MT formula は導いていない。Rikitake (1951)
はMT formula をTerada’s law と書いているが、これは何かの思い違いであろう。
MT formulaの代わりに寺田は、マクスウエルの方程式の解から のexpression を求めている。
その中には地下の電気伝導度κと脈動の波長λが入っている。寺田はκには適当な値を用い、観測で決まった
にあうように波長λを決めるという方向をとっている。波長はおよそ1200kmであった。平山 (1934)
は、自らが求めた波長が寺田 (1917)の結果とよく一致することを結論にしている。
要約すれば、まずTerada (1917)が油壺の地磁気観測デ−タを手にして、地磁気脈動の解析に進んだ。寺田
は脈動の原因として上層大気中の電流の変動を考えるとともに、それによる地下の誘導電流をも考慮した。
そのためにマクスウエルの方程式を適用したが、磁場の解だけを用い、かつ地下の電気伝導度を求めるので
はなしに、脈動の波長を求める方向をとった。
平山 (1934) は、マクスウエルの方程式の適用は寺田に倣ったのであろう。しかし彼は地電流のデ−タも持
っていた。それで、地磁気、地電流のデ−タを結合して地下の電気伝導度を求める方向をとることができ、
MT formula に到達した。しかし彼は、地下の電気伝導度を決めるのではなく、波長を求めた。これは多分に、
Terada (1917)が誘引になったためと思われる。
Zhdanov (2010) は、「すでに1934年に、平山が電場と磁場の比を与える式を見出したことは興味深い。
しかし、MT 法のsolid physical and mathematical foundation の構築は、TikhonovやCagniard に帰すべき
である」と述べている。どんな場合にも、一つの体系をより詳細に、より深く、正確に解明した者の貢献は
言うまでもない。それとともに、たとえ荒削りでも、自然の新しい切り口を開いたことの意義は、それに劣
ることなく絶大である。
平山は臨時豊原地磁気観測所に勤務し
ながら、この仕事を進めた。極寒の地に
あって、観測のル−チンワ−クのかたわ
ら研究にも力を注いだ。どんな荒天の日
にも絶対観測はしなければならず、変化
計の印画紙は取り替えなければならない。
いまでは想像もできない過酷な勤務であ
る。そうしたなかで、科学の研究に実を
あげた努力と業績に思いをいたすべきで
ある。
また、それを可能にした当時の中央気象台のあり方にも目を向ける必要がある。技術官庁でありながら、
純粋の理学研究を受け入れるだけの余地を保っていた。このことは日本の大学や研究機関の昨今の状況に照
らして、極めて重要な事柄であると信ずる。
Cagniard (1953)は、MTの開拓者 Tikhonov と並んで力武常次と加藤愛雄を、彼らの論文を列挙してacknowledge
している。MTの歴史の上で記念碑的論文の著者は、当時まだ若かった日本の研究者に触発されて、その仕事を成し
遂げたのである。
謝辞:気象庁地磁気観測所から貴重な写真の提供をいただいた。ここに厚く御礼申し上げる。
引用文献(年代順)
Terada, T.(1917), On rapid periodic variations of terrestrial magnetism, J. College. Sci., Tokyo Imperial Univ., Vol. 37, Art.9, pp56-84.
平山 操(1934), 地電流及び地磁気変化の間の関係に就いて, 気象集誌, 第2輯, 第12巻, 第1号, pp16-22.
Rikitake, T.(1951), Changes in Earth Current and their Relation to Electrical State of the Earth’s Crust, Bull. Earthq. Res. Inst., 29, pp271-276.
Cagniard, L.(1953); Basic theory of the magneto-telluric method of geophysical prospecting, Geophysics, 18, 3, pp605-635.
Treatise on Geophysics(2007), Vol. 5, Geomagnetism, p243, Elsevier.
Zhdanov, M.S.(2010), Electromagnetic geophysics: Notes from the past and the road ahead, Geophysics, 75, pp.75A49-75A66.
水野浩雄(元香川大学教授)