ギルバートの実験をやってみよう:
誘導磁化の実験


experiment

       2つの磁石があるとき、それらの極性の組み合わせにより、それらがどのように互いに引き合ったり反発しあったりするのかについて、ギルバートは熟知してい まし た。 しかしその一方で、鉄は通常、磁石に引き寄せられるのみであり、反発することを知りません。これは、磁石から離されると磁力を完全に失う軟 鉄 で さえも、その例外ではありませんでした。

        ギルバートは、永久磁石の近くに置かれた鉄は、その磁石と互いに引き合うような極性を持った、一時的な磁石となる性質があるのではないかという、見事な推 測を行いました。これはつまり、例えば磁石のS極に接触させられた鉄の棒は、その側の端が一時的にN極となるので、磁石に引き付けられるのではないかとい う考 えです。磁石の極は常にペアで現れるという性質があるので、このとき、 棒のもう一方の端は一時的にS極となり、さらにまた別の鉄を引き 付けることができるようになるのでしょう。

        これは、コップに小さな鉄の針を多数入れて、そこに馬蹄形磁石を入れてすぐに引き上げてみれば、確かめることができます。磁石に直接くっついているピンが 一 番多 いことは当然ですが、よく見ると、磁石に直接くっついているピンにさらに別のピンがくっついていることに気付くと思います。 でも、それらのピンを磁石から引き離すと、ピンは再び磁力を失うのです。

       鉄は、磁石の近くに置かれると、一時的な磁石となる(現在で言うところの誘導磁化) − ギルバートは、その推論を確かめるため、次のような実験を考えま した (挿絵参照)。2本の鉄の棒を、互いに平行になるように紐を使って、テレラの磁極の上にぶら下げます。すると、鉄の棒は互いに反発しあうの です。テレラの影響で、2本の棒はともに一時的な磁石となるのですが、その時、同じ極性の一時的な磁石となるために、鉄の棒同士は反発しあうのです。

(ところで...『磁石論』の表紙に、この実験の絵が描いてあるのに気づいた人はいましたか?)

  •    ギルバートの実験を再現してみたのが、こちらで す。 しかしながら、この実験は準備もやっかいで、しかも、結果はギルバートの絵ほど大げさでもないのが欠点です。

  •    もっと簡単で、もっと分かりやすい実験をご紹介しましょう。これは机の上で簡単にできる実験で す。教師の人にとっては、これを OHP 上でやれば、クラス全体に見せることができるのも長所です。

    experiment     まず、(1)黒板に小さな紙を留めたりするようなときに使う、小 さなボタン型の磁石を用意します(図参照。冷蔵庫用のゴム磁石では弱すぎるので不適です)。(2) 長さ5センチほどの細い仕上げ釘2本を 用意します。もし手に入らない場合は、もっと長い釘の頭の方を半分切り落として、5センチぐらいの長さにしたものを2本用います。

    experiment  磁石を机または OHP の投影面に載せ、磁極の一つが手前側になるように置きます(図参照。机または OHP の投影面上に置いたものを、上から眺めた図)。釘の1本をとり、その釘の端を磁石の極につけます。その時、釘が机の面内で磁石に垂直になるように、指で押 さ えておきます。指で押さえておかないと、釘はすぐに磁石に横に引っ付こうとするので注意してください。

     もう1本の釘の端も、 磁石の同じ所に付けます。そして、2本の釘が平行となるように、親指と人差し指とで押さえます。それから、2本の指をゆっくりと図のように開いていくと、 2本 の釘は、ギルバートの絵にあるように、互いに端が反発し合います。人差し指と親指とを開いたり閉じたりすると、釘同士が互いに反発しあっていることを確か める ことができます。

    ...ところで:

        もし読者に電気についての知識があれば、この実験は、検電器の 磁石版だということに気付くと思います。 検電器はごくわずかの静電気でも検出できる装置です。検電器では、絶縁体で作られたスタンド上に取り付けられた金属棒の先に、2枚の薄い金箔(またはアル ミニ ウム箔)が、互いに平行になるように貼ってあります。もし、金属棒が静電気を帯びた物体に触れた場合、静電気の一部が金属棒を伝って金箔に達します。+な ら+、−なら−の静電気が金属棒を伝って先端部まで行き、そこで2枚の金箔に分かれて伝わるので、結局、2枚の金箔の持つ静電気は、同じ極性となります。 同極性 の静電気は互いに反発する性質があるので、ギルバートの実験で2本の釘が反発しあうのと同じように、検電器の2枚の金箔も互いに反発しあうのです。

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  • 原著者:   Dr. David P. Stern
    原稿更新日 2001年11月25日