English 磁石の北と地磁気極と磁極

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磁石の北 (磁北)   地磁気極 (磁軸極)   磁極   地磁気極と磁極の位置/

なぜ磁石はほぼ北を指すのか?   なぜ日本で磁石のN極は北より少し西を向くのか?

極での方位磁石    地磁気双極子モーメントの永年変化

方位磁石 (羅針盤) の針 (方位磁針) のN極がおおよそ北を指すことは古くからよく知られている。 これは、地球には地磁気と呼ばれる大まかに見て北極付近にS極、 南極付近にN極があるような磁場が存在することによるが、 方位磁石の針の指す北 (磁北という) が正確な真北 (地理的な北) ではなく、 偏角と呼ばれる角度だけずれることからもその一端がうかがえるように、 地磁気は南北両極に極がある棒磁石で表されるような簡単なものではなく複雑な分布をしている。 このため、地磁気極磁極という2種類の極が定義されるが、磁北はそのどちらへの方向でもない (図1)。 また、重心で支えられた磁石の針は水平にはならず、 例えば京都付近ではN極側が50度近く下を向く (この下向きの角度は伏角と呼ばれる) が、 日本で使われる方位磁石は針が水平に近くなるようにするためS極側を重くしてある (全世界向けに方位磁石を販売しているメーカーは、 出荷先の伏角に対応した何通りかの製品を作っている) ので、 以下では主に水平面内での向きを扱う。

南半球用の方位磁石を回してみると... (MPG: 2.3MB)

京都から見た地磁気極と磁極と方位磁石 図1   国際標準地球磁場 (IGRF-12)による、 2015年の京都 (北緯35.0度、東経135.8度) での磁石の針の水平面内の向き (偏角) と地磁気極と磁極の方向 (左) 及び伏角 (下)。 EWSNはそれぞれ地理的な東西南北の方向を示している。
京都での伏角

なお、地磁気のほとんどは主磁場と呼ばれる、 主に地球中心核内でのダイナモ作用に起因する磁場であり、 通常、磁石の針の向きの議論は主磁場のみを対象にしているが、 地磁気には主磁場以外に強度的には通常1%以下であるものの、 主に電離層など地球外部を流れる電流によって作られる、 おおむね1秒から1ヶ月程度で変化する変化磁場と呼ばれる成分があり、 磁石の針の向きにも微妙に影響する。 例えば日本付近で、磁北は大きな磁気嵐の際には0.3度以上変化することがあり、 地磁気的に静かな日 (地磁気静穏日) でも静穏日日変化によって朝は東に、 昼下がりには西に振れ、 その全振幅は季節などにより変化するものの0.1度を超えることが多い。 さらに、磁石の針のN極は、 近くの鉄でできた家具や鉄筋コンクリート造りの建物等の磁気を帯びた物体や、 電車線等の直流電流に影響され、 その場所での標準的な磁北とはかなり違った向きを指すこともあるが、 以下ではおもに主磁場のみを考慮した場合の地磁気極磁極磁北について述べる。

地磁気極 (Geomagnetic pole) とは、 地磁気を地球中心にある双極子による磁場 (双極子磁場) で近似したときの、 その双極子の軸と地表との交点のことで地磁気双極子極、 あるいは磁軸極ともよばれ、地磁気座標の極ともなっている。 簡単にいえば、地磁気を地球中心にある1個の短い棒磁石で近似したときの、 その棒磁石の軸と地表とが交わる2点のことで、 その定義から南北両半球に1つずつ、互いに地球中心の反対側にあり、 それぞれ地磁気南極、地磁気北極と呼ばれるが、 磁石としてはそれぞれN極、S極である表1図2国際標準地球磁場 (IGRF-12) による1900年から2020年までの地磁気極の位置を示している。 地磁気北極は2015年には北緯80.4度、西経72.6度のクイーンエリザベス諸島付近、 地磁気南極は南緯80.4度、東経107.4度の南極大陸内の東南アジア寄りにあり、 それらは地磁気永年変化と呼ばれる、 ゆっくりした主磁場の変化により移動している

これに対し、磁極 (Magnetic pole) とは、伏角が±90度になる、 つまり鉛直面内を自由に動ける磁石の針が鉛直になる地点のことであり、その地点では通常の方位磁石の針の向きは不定となる。 その定義から南北両半球に1つずつとは限らず沢山あることもあり得るが、現在の地磁気は双極子成分が卓越しているので、 IGRFによれば両半球に1つずつで、 それぞれ磁南極 (あるいは南磁極)、磁北極 (あるいは北磁極) と呼ばれるが、 これらも地磁気極と同様、磁石としてはそれぞれN極、S極である磁北極は磁北の方に、 各地点で順次その場での磁北の向きに変えて進んだときに到達する地点である。 表1図2にはIGRF-12に基づく1900年から2020年までの磁極の位置も示されている。 地磁気には非双極子成分があるため、 図にあるように磁極は地磁気極とはかなりずれている。 また、地磁気極と同様に地磁気永年変化により移動するが、 動きが地磁気極に比べて速いことや、 近年磁北極の動きがとりわけ速くなっていることが注目される。

磁極についてはその位置を知るための測量を行って求めたものもあり、 磁北極については、 Geological Survey of Canadaが測量を行っている。 それによると、2001年には磁北極は北緯81.3度、 西経110.8度にあったが、変化磁場の効果による日変化も数十kmある。 一方、磁南極は2001年には南緯64.7度、東経138.0度にあった。

昔の地磁気を調べる古地磁気学によれば、 地磁気極や磁極は極性がおおよそ数十万年の時間規模で逆転するものの、 逆転の途中を除きおおむね地理極の近くにあることが知られている。 このことはダイナモのシミュレーションによってもほぼ確かめられている。 つまり、地磁気主磁場ダイナモでは地球自転が重要な役割をしており、 その結果自転軸に近い方向に双極子磁場が向き、 地磁気極や磁極が地理極の近くに位置するようになる。 一方、地磁気主磁場ダイナモには軸対称な定常解は存在ぜず、 地理極と地磁気極や磁極が離れている必要があることが示唆されている。 以上のことを合わせると、日本のような中低緯度域では、 磁石の針のN極はおおよそ地理的な北 (地磁気が逆転しているときには南) を向くものの少しずれるというのは自然な状態といえる。

ある地点での磁北 (Magnetic north) は局所的な地球磁場の影響を受けるので、 地磁気北極と磁北極の向きのどちらとも異なる。 磁北を地理北極の向きから東向きに測った角度が偏角であるが、 現在日本付近で見ると地磁気北極、 磁北極どちらも地理北極から東にあるにもかかわらず偏角は負である、 すなわち磁北は地理的な北よりも西を向いている。 例えば京都 (北緯35.0度、東経135.8度) では、IGRF-12によると2015年には 偏角は-7.5度 (西に7.5度) であるが、 地磁気北極、磁北極はそれぞれ北から東へ5.1度、4.2度の方向になる (図1参照)。 また、地磁気永年変化により日本付近での偏角は 現在 -0.01〜-0.05 度/年の割合で変化している。 いいかえれば10年でほぼ 0.1〜0.5 度西へ振れている。

現在、 日本付近で磁北が地理的な北よりも西に向いている原因としては、 シベリアに見られる地磁気の異常分布の影響があげられる。 すなわち、 バイカル湖の北の地域は磁北極からかなり離れているにもかかわらず、 北半球でもっとも地磁気が強くなっており (地磁気全磁力 (強さ/Total intensity) 分布図)、 伏角も大きく (伏角 (Inclination) 分布図)、 あたかも磁極があるかのような「偽磁極」とでもいうべき分布をしている。 地磁気永年変化により1800年頃からこのような地磁気の異常分布が顕著となり、 日本付近では磁北もこの「偽磁極」に引かれる形で、 地理的な北よりも西を向くようになったようで、 今なお続くこの「偽磁極」の発達が日本付近での偏角の西向きへの変化や、 磁北極のシベリア方向への急速な移動に影響を及ぼしているものと見られる。

過去400年間の地磁気全磁力分布のアニメーション

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地磁気北極地磁気南極 磁北極磁南極 双極子モーメント
1022Am2
緯度経度緯度経度 緯度経度緯度経度
1900 78.7N 68.8W 78.7S 111.2E 70.5N 96.2W 71.7S 148.3E 8.32
1905 78.7N 68.7W 78.7S 111.3E 70.7N 96.5W 71.5S 148.5E 8.30
1910 78.7N 68.7W 78.7S 111.3E 70.8N 96.7W 71.2S 148.6E 8.27
1915 78.6N 68.6W 78.6S 111.4E 71.0N 97.0W 70.8S 148.5E 8.24
1920 78.6N 68.4W 78.6S 111.6E 71.3N 97.4W 70.4S 148.2E 8.20
1925 78.6N 68.3W 78.6S 111.7E 71.8N 98.0W 70.0S 147.6E 8.16
1930 78.6N 68.3W 78.6S 111.7E 72.3N 98.7W 69.5S 146.8E 8.13
1935 78.6N 68.4W 78.6S 111.6E 72.8N 99.3W 69.1S 145.8E 8.11
1940 78.5N 68.5W 78.5S 111.5E 73.3N 99.9W 68.6S 144.6E 8.09
1945 78.5N 68.5W 78.5S 111.5E 73.9N 100.2W 68.2S 144.4E 8.08
1950 78.5N 68.8W 78.5S 111.2E 74.6N 100.9W 67.9S 143.5E 8.06
1955 78.5N 69.2W 78.5S 110.8E 75.2N 101.4W 67.2S 141.5E 8.05
1960 78.6N 69.5W 78.6S 110.5E 75.3N 101.0W 66.7S 140.2E 8.03
1965 78.6N 69.9W 78.6S 110.1E 75.6N 101.3W 66.3S 139.5E 8.00
1970 78.7N 70.2W 78.7S 109.8E 75.9N 101.0W 66.0S 139.4E 7.97
1975 78.8N 70.5W 78.8S 109.5E 76.2N 100.6W 65.7S 139.5E 7.94
1980 78.9N 70.8W 78.9S 109.2E 76.9N 101.7W 65.4S 139.3E 7.91
1985 79.0N 70.9W 79.0S 109.1E 77.4N 102.6W 65.1S 139.2E 7.87
1990 79.2N 71.1W 79.2S 108.9E 78.1N 103.7W 64.9S 138.9E 7.84
1995 79.4N 71.4W 79.4S 108.6E 79.0N 105.3W 64.8S 138.7E 7.81
2000 79.6N 71.6W 79.6S 108.4E 81.0N 109.6W 64.7S 138.3E 7.79
2005 79.8N 71.8W 79.8S 108.2E 83.2N 118.2W 64.5S 137.8E 7.77
2010 80.1N 72.2W 80.1S 107.8E 85.0N 132.8W 64.4S 137.3E 7.75
2011 80.1N 72.3W 80.1S 107.7E 85.4N 137.4W 64.4S 137.2E 7.74
2012 80.2N 72.4W 80.2S 107.6E 85.7N 142.5W 64.4S 137.0E 7.74
2013 80.3N 72.5W 80.3S 107.5E 85.9N 148.0W 64.3S 136.9E 7.73
2014 80.3N 72.5W 80.3S 107.5E 86.1N 153.9W 64.3S 136.7E 7.73
2015 80.4N 72.6W 80.4S 107.4E 86.3N 160.0W 64.3S 136.6E 7.72
2016 80.4N 72.7W 80.4S 107.3E 86.4N 166.3W 64.2S 136.4E 7.72
2017 80.5N 72.8W 80.5S 107.2E 86.5N 172.6W 64.2S 136.3E 7.72
2018 80.5N 73.0W 80.5S 107.0E 86.5N 178.8W 64.2S 136.1E 7.71
2019 80.6N 73.1W 80.6S 106.9E 86.4N 175.3E 64.1S 135.9E 7.71
2020 80.6N 73.2W 80.6S 106.8E 86.4N 169.8E 64.1S 135.8E 7.70
表1  IGRF-12に基づく1900〜2020年 (2016年以降は予測) の地磁気極と磁極の地理緯度、経度、磁気双極子モーメント。 1835年以降の地磁気双極子モーメントの永年変化のグラフは、 こちらにあります。
ある瞬間での実際の磁極の位置は、 電離層電流などによる日変化場や地磁気擾乱場の影響で80km以上移動する。 このことについて詳しくはGeological Survey of Canada内のページを参照のこと。

地磁気北極と磁北極
地磁気北極と磁北極

地磁気南極と磁南極
地磁気南極と磁南極

図2  IGRF-12に基づく地磁気極と磁極の1900〜2010年までの10年毎と2015年 () の位置、及び2020年の予測位置。 各図をクリックすると大きく表示します。