京都大学大学院理学研究科附属地磁気世界資料解析センタ-
研究活動

- 太陽風と磁気圏相互作用の研究
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磁気嵐急始部(SC)を用いた磁気圏の非定常応答に関する研究
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太陽風パラメターに対する磁気圏システム応答の研究
- 磁気圏高エネルギープラズマの研究
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サブストーム時の粒子加速機構の研究
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磁気嵐中のプラズマシートイオン組成の変化
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太陽活動周期に亘るプラズマシートイオン組成の変動
- 磁気圏電流の研究
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惑星間空間磁場(IMF)と磁気圏・電離層の電流との関係についての研究
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内部磁気圏磁場・電流構造の研究
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南北半球間沿磁力線の研究
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- 磁気嵐時の内部磁気圏電流系の研究
- 磁気嵐・リングカレントの研究
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磁気嵐とサブストームの関係
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地上磁場変動とリングカレントエネルギーの間の関係式
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イオン流出機構とリングカレントの減衰に関する研究
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電荷交換反応とリングカレントの減衰に関する研究
- 磁気圏-電離層MHD波動現象の研究
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沿磁力線電流微細構造の研究
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低高度人工衛星データを用いた地磁気脈動の研究
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精密磁場観測・実時間データ取得システムの開発と利用
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サブストーム時に現れる長周期地磁気脈動の研究
- 電離層電流および構造の研究
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電離層3次元電流構造についての研究
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電離層子午面電流渦の発見
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中緯度電離層電場不規則構造(MEF)の発見
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MUレーダーを用いた電離層構造の研究
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EISCATレーダーによる電離層電流と地磁気変化の関係に関する研究
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地磁気静穏時日変化(Sq)場の長期間に亘る解析
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地磁気静穏時日変化(Sq)場の生成機構の研究
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電離層電流系に対する誘導電場の寄与
- 地球内部電流の研究
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地磁気地球内部誘導場の研究
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地震に伴う短周期磁場変化の検出
- 海底電磁気観測による地球内部電磁誘導の研究
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北西太平洋海盆および西フィリピン海盆における海底電磁気観測
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日本海海底電磁気アレイ観測によるマントル深部高電気伝導度異常域の発見
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地球表層を起源とする超高層電磁気現象の研究
- 地磁気永年変化の研究
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地磁気ジャーク現象の解析
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古代窯跡における残留磁気測定
- 太陽風と磁気圏相互作用の研究
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磁気嵐急始部(SC)を用いた磁気圏の非定常応答に関する研究
惑星間空間衝撃波と磁気圏との衝突によって生じる磁気嵐急始部(SC)の波形と振幅は、緯度と地方時に依存する複雑な分布を示し、磁気圏の圧縮による単純な磁場増加では解釈できない。このSCが、地球-電離層-磁気圏系の複雑なインパルス応答として解釈されるべきことを地上磁場データの解析から明らかにし、そのモデルを提案した。このモデルは、fast mode磁気流体波により低緯度地方へ伝達される磁場増加(DL場)と、Alfven modeによって高緯度電離層へ伝えられる水平電場による電離層電流場(DP場)の合成によってSCの複雑な波形と振幅の分布が説明できるとしている。高緯度で卓越する DP場が、昼側赤道でも時間遅れなしに顕著に検出されることから、このモデルの正当化のためには、①高緯度電離層に印加された水平電場の赤道地方への即時伝播モードの存在、②これによる電離層電流の低緯度への即時浸透と昼側赤道での増巾、の二つが必要であった。①に対しては、地表-電離層間導波管0次TMモード波による機構を提案した。このモードによるエネルギーの伝達に疑義が出されたが、1991年3月24日のSCに伴う異常に鋭いパルスの解析から、この即時伝搬の可能性を支持する事実を見つけた。②については、高緯度電離層に印可した水平電場による電離層電流分布の数値計算を行い、SCの波形と振幅の汎世界的分布が説明出来ることを明らかにした。このモデルは、SCの初期に現れる preliminary impulse(PI)の原因をDP場による電離層電流であると仮定していたが、MAGSAT衛星と地上の同時観測データの解析から、この電流の存在を実証した。また、磁気圏の急膨張に伴う地磁気変化は、SCの際に磁気圏・電離層に生じると考えられる電流系の向きを逆転することにより説明できることを、衛星と地上磁場データの解析により示した。
これらは、主として日本人が発展させてきたSC研究を集大成するものであり、SC現象を統一的に解釈出来るモデルは現状では他に無い。
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太陽風パラメターに対する磁気圏システム応答の研究
磁気圏は、太陽風パラメターを入力とし、地磁気擾乱指数等を出力とする一つのシステムであるとするシステム理論的見方を初めて導入し、その線形応答関数を求めた。その結果、統計的には、AE指数やDst指数のおよそ70-80 %は、太陽風磁場南向き成分と速度の積(dawn-to-dusk電場)を入力とする線形システムで表現できることがわかった。また、各指数の特性が、インパルス応答関数によく反映され、AL指数で代表されるサブストームはIMFの南転から約1時間後に発生すること、AU指数の応答からは、磁気圏対流がより短い時間で太陽風磁場に応答していること、Dst場は、約1時間で発達し、その後2-3時間は急速に減衰することなどが示された。この研究以前は、パラメター間の単純な相関解析が行われていただけであり、より高度な情報理論のこの分野への応用としてさきがけとなった。
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- 磁気圏高エネルギープラズマの研究
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サブストーム時の粒子加速機構の研究
地球近くの磁気圏尾部を飛んでいるGeotail衛星のデータを用いて、プラズマシート中でのサブストーム開始時の粒子加速機構を調べた。その結果、磁場双極子化が起こっている領域ではプロトンよりも一価酸素イオンのほうが強い加速を受けていることが分かった。酸素イオンは加速を受けた後、そのピッチ角分布やエネルギースペクトルを大きく変化させることも明らかになった。粒子加速機構として、酸素イオンの非断熱的加速を提唱し、それから予測されうる結果は観測結果とよく一致することを示した。
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磁気嵐中のプラズマシートイオン組成の変化
プラズマのイオン組成が静穏時と磁気嵐時(擾乱時)でどのように異なるかを統計的に調べ、擾乱時には、プロトンに比べて一価ヘリウムイオンおよび一価酸素イオンのエネルギー密度が増加することを明らかにした。このイオン組成の変化は、磁気圏尾部のカレントシートにおける粒子加速機構が質量依存性を持つことに起因するとした。加えて、電離層上部の観測との比較により、一価酸素イオンはサブストーム時に電離層から大量に流出し約一時間の時間スケールでプラズマシートへ輸送されることを示した。
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太陽活動周期に亘るプラズマシートイオン組成の変動
約15.5年に亘って蓄積されたGeotail衛星によるプラズマシートのイオン組成データと太陽活動度の間の関係を調査した。その結果、O+/H+(He+/H+)の積分フラックス比とF10.7指数の間には強い関係(相関係数0.80以上)があることが明らかになり、経験的関係式を求めることができた。この強い相関についての物理過程の候補としては、太陽活動度に応じてEUV放射が変化するため、電離層の加熱に伴ってイオンの特性高度が変化することや電離度が変化することが挙げられる。また、導かれた経験的関係式を用いれば、衛星データが無くてもF10.7指数からイオン組成を推定することができる。次の第24太陽活動周期については、F10.7指数および太陽活動度についてのいろいろな予測が成されているため、こうした予測値を経験的関係式に代入することよってジオスペースプラズマ環境の長期変動予測が可能になると考えられる。
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- 磁気圏電流の研究
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惑星間空間磁場(IMF)と磁気圏・電離層の電流との関係についての研究
IMFが北向き成分を持つとき、昼側極冠内に午後側で磁気圏から電離層に入り午前側で出る一対の沿磁力線電流が存在することは、長期間の地上地磁気データの統計的解析[Maezawa, 1976]から推定されていたが、MAGSAT衛星データを用いれば、1日間のデータによりこの電流の存在を直接的に確かめられることを示した。これは、現在NBZ currentとして知られる沿磁力線電流の衛星による最初の検出である。
同じMAGSAT衛星データを用いて、沿磁力線電流のIMF東西成分依存性も統計的に調べた。また、太陽風中の惑星間空間電場が直接磁気圏内の電流回路に印加されるとの仮定から出発して、電離層高度でのプラズマ対流を計算し、そのIMF依存性が観測データとよく合うことを示した。
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内部磁気圏磁場・電流構造の研究
DE-1衛星等の内部磁気圏を飛翔した衛星の磁場観測データを統計的に解析することにより、昼間側磁気赤道面を東向きに集中して流れる電流と、それにつながると考えられる中緯度の沿磁力線電流を発見した。この電流系(磁場分布)は地磁気擾乱とは関係がなく、太陽活動度および季節依存性を示すことなどから、電離層中性風が原因になって磁気圏に大規模電流系を形成している可能性が高いことを示した。また、リングカレントは強い昼夜非対称があることなどを定量的に示し、内部磁気圏の電流・磁場構造は非常に複雑であることを明らかにした。これまで、磁気圏を流れる電流についてはその原因を磁気圏側に求めるのが常識とされてきたが、上記発見は、電離層中性大気の影響が磁気圏電流においても無視できないことを示すものである。
1999年3月に打ちあげられたデンマークのエールステッド衛星による磁場観測データを用いて真昼の磁気圏から電離層に流入し、真夜中の磁気圏に流出する沿磁力線電流の存在を確認するとともに、電流強度が地磁気擾乱指数と良い相関があること、電流の中心が、真昼からやや午前側に片寄った領域にあることを見いだした。
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南北半球間沿磁力線電流の研究
エールステッド衛星観測データから、昼側の電離層ダイナモに伴う沿磁力線電流に起因すると考えられる磁場変化を検出し、地上磁場観測データと組み合わせて詳細に解析した。この磁場変化は従来から電離層ダイナモの計算機シミュレーション等で予想されていた南北両半球を結ぶ沿磁力線電流で基本的には説明できることを示すと共に、春分・秋分で南北半球が対称ではなく2ヶ月遅れるという、予想と大きく異なる季節変化を示すことを発見した。
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- 磁気嵐時の内部磁気圏電流系の研究
極域沿磁力線電流の中緯度における磁場効果は同じ磁気緯度であっても、伏角の差があるため、経度により大きさがかなり異なる。観測データの詳細な解析から、この経度依存性の存在を確認すると共に、正味の沿磁力線電流が予想とは正反対の季節変化をすることを発見した。これについては、極冠域を横切って夜側から昼間側に流れる電離層電流が冬には弱くなり、沿磁力線電流が電離層でショートできなくなる効果で説明できることを示した。
また、沿磁力線電流の解析には従来、低高度衛星による観測データが用いられてきたが、DE-1 衛星の磁場データを用いて高々度衛星の利点を生かすことにより、沿磁力線電流を子午線に沿って積分した正味の沿磁力線電流の量の地磁気ローカルタイム(MLT)分布を調べ、インバージョンによって内部磁気圏の電流分布を推定する手法を開発した.この手法を各子午面に適用することにより,内部磁気圏の電流の3次元的な構造の推定を行った。
上記二つの成果に基づき、中低緯度および極冠域の地磁気データのみから、磁力線に沿って極域に出入りする沿磁力線電流を時々刻々推定する手法を開発した。
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- 磁気嵐・リングカレントの研究
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磁気嵐とサブストームの関係
中緯度地磁気毎分値を用いた新しい指数ASYとSYMを開発し、磁気嵐およびサブストームについて調べた。その結果、サブストームが原因になって磁気嵐を起こしているという従来の考えは事実に反し、サブストームは磁気嵐の原因ではないことを明らかにした。また、荷電粒子の軌道を現実的な磁気圏磁場モデルの中で追跡することにより、磁気圏尾部から注入された高エネルギー荷電粒子は磁気圏の側面から大部分流出してしまうこと、磁気圏のdawn-to-dusk電場を時間変化させることにより、リングカレントの発達・減衰を計算機上で再現できることを示した。このようにしてシミュレートされたリングカレントの発散を計算することにより、沿磁力線電流の分布を推定し、その結果流れる電離層電流を計算し、地上磁場観測データの解析結果と良く一致することを示した。この研究成果は、磁気嵐の成因についての2つのシナリオに関する議論に、基本的な点で決着をつけた。
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地上磁場変動とリングカレントエネルギーの間の関係式
IMAGE衛星HENA観測器のデータを用いて、磁気嵐主相におけるリングカレントのエネルギー量とSYM-H指数の関係を調べた。良く知られているDPS関係式によれば、SYM-H指数の減少に伴って、リングカレントのエネルギー量は増加する(逆相関がある)と予想され、統計的には、おおまかではあるがこの関係が認められた。しかし、個々のイベントを見ると、DPS関係式に従うのは半数以下であることを発見した (24例中10例)。このような予想と反する例については、DPSの関係式を一般化し、磁力線が引き伸ばされているときにはリングカレントへのエネルギーの流入が悪くなることやリングカレントのエネルギーが減衰していくことを考慮すると、説明できることを明らかにした。
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イオン流出機構とリングカレントの減衰に関する研究
Geotail衛星で得られた高エネルギー粒子フラックスデータを用いて、磁気圏のすぐ外側および太陽風中の流出イオンの空間分布とその太陽風パラメター依存性を統計的に調べた。解析の結果、流出イオンは朝側よりも夕側で頻繁に観測され、その流出量も夕側で多いことが示された。また、太陽風パラメターのうち、流出イオン量を最も強く支配しているのは太陽風動圧であることが明らかになった。このことは、イオン流出を考える上において、内部磁気圏の磁場構造が重要であることを示している。以上の結果は、一般的に太陽風電場が最も重要と考えられてきた常識を覆すものである。
次に、上記の結果を基にイオン流出機構がリングカレントの減衰にどの程度寄与しているのかを定量的に調べた。流出量と流出面積から計算したイオンの総エネルギー流出量とSYM-H指数から計算したリングカレントのエネルギー減衰量を比較したところ、イオン流出機構はリングカレントの減衰の23%以上を担っており、大きな役割を果たしていることが示された。この結果は、観測データから推定されたものとして世界で初めてのものである。
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電荷交換反応とリングカレントの減衰に関する研究
IMAGE衛星HENA観測器により観測されたデータを用いて、電荷交換反応によるイオン消失機構について統計解析を行った。この解析手法は、HENA観測器の観測原理であるイオン-中性粒子電荷交換反応の特性を最大限に活かしたものであり、観測器の開発者・責任者からも大きな期待が寄せられた。解析の結果、電荷交換反応によるイオン消失量とリングカレントの減衰率の間には強い相関は見られないことが分かった。また、リングカレントの速い減衰には電荷交換反応はそれほど重要でないということが示された。これは、モデル計算などで従来考えられてきたことが観測的には正しくなかったことを意味しており、大変重要な結論である。
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- 磁気圏-電離層MHD波動現象の研究
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沿磁力線電流微細構造の研究
MagsatおよびDE-2衛星で測定された磁場データ等を用いて、極域上空における磁場変動の微細構造を詳細に調べた。その結果、電離層上空で、少なくとも100 km程度以上のサイズの磁場擾乱の大部分は、沿磁力線電流の空間的構造であることが示され、よりスケールが小さくなるにつれアルフベン波動的性質が見られることを示した。この様な微細構造の振幅分布を統計的に求め、大規模沿磁力線電流との関係を調べた。また、電場と磁場の比を用いて電離層電気伝導度を求めることの妥当性と限界を明らかにした。この研究は、沿磁力線電流微細構造と波動の関係について観測的に調べたものとしては最初である。
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低高度人工衛星データを用いた地磁気脈動の研究
低高度衛星(MagsatおよびDE-2)の磁場データに地上で観測されるよりも2桁程度大振幅のPc1型波動が存在することを発見した。この種の波動はプラズマポーズ付近で磁気嵐後の静穏時に現れることから、リングカレントの高エネルギー粒子がプラズマ圏でイオンサイクロトロン不安定を起こして成長したものと考えられる。この波に伴って、数eVの電子の降り込みが観測され、また、電離層が局所的に加熱されていることがわかった。この電子の降り込みは、ピッチ角分布の解析から、大振幅Alfven波に伴う沿磁力線電場による加速で説明された。
午前側を中心に出現するPc5型脈動に伴う高エネルギー電子の降り込みについても、高高度衛星(DE-1、ETS-VI)等のデータと合わせて解析することにより、kinetic Alfv?n波による沿磁力線加速の可能性が高いことを示した。
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精密磁場観測・実時間データ取得システムの開発と利用
信楽および峰山観測点に磁場測定およびデータ収集・送信装置を設置し、観測を実施するとともに、データ収録・実時間転送システムを開発した。このシステムを用いてPi2型地磁気脈動の自動検出によるサブストームの実時間通報システムを開発し、引き続いて、世界の地磁気観測所の責任者・担当者に協力要請を行い、イギリス・ヨーク(York)観測所、ドイツ・フュルステンフェルドブルック(F?rstenfeldbruck)観測所、日本・柿岡(Kakioka)観測所、アメリカ・ジョンズホプキンス大学応用物理研究所(JHU/APL)、メキシコ・テオロユーカン(Teoloyucan)観測所にも同様のシステムを構築した。これら合計6ヶ所の観測所は、日本・ヨーロッパ・アメリカの各地域に2箇所ずつ配置したようになっており、それぞれの地域は経度にして約120度ずつ離れているので、どの時間においても、必ずどこかの地域はPi2地磁気脈動が観測されやすい夜間に位置することになる。Pi2地磁気脈動が現れたと判定された場合、その情報はインターネットを通じて京都大学に送信され、ただちにWWW(http://swdcli40.kugi.kyoto-u.ac.jp)で公開されている。このようなPi2の実時間検出システムの開発および実用化は初めてであり、宇宙天気予報研究にも今後大きく貢献すると期待される。
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サブストーム時に現れる長周期地磁気脈動の研究
Pi2地磁気脈動は、過去の研究では主に夜側で起こる現象とされてきたのに対し、低緯度地上観測所のデータを統計的に解析することにより、昼側でも夜側の3分の1程度の割合で起こることを発見した。また複数地上観測データを用いたり、衛星観測による磁気圏での振動モードを調べたりすることによって、昼側Pi2地磁気脈動はキャビティモード共鳴による可能性が高いことを示した。
Pc4地磁気脈動については、地磁気地方時23-04時に頻繁に現れるこれまであまり報告のない種類のものについて解析を行い、その発生機構として、サブストームに伴い解放されるfastモードアルフベン波と磁力線の共鳴を提唱した。
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- 電離層電流および構造の研究
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電離層3次元電流構造についての研究
電離層内では、磁力線に沿っての電気伝導度が垂直方向のそれより非常に大きいことを利用し、3次元構造が重要な役割を演じる磁気赤道域を流れる赤道ジェット電流を含めた全電離層の電流を無矛盾に求める計算コードを開発した。このように、磁気赤道域と、中低緯度の3次元電離層電流系を一度に無矛盾に求める計算は初めてである。
このコードを利用して、地磁気静穏日日変化(Sq)場の主な原因である電離層ダイナモ作用のシミュレーションを行った。その結果、1日周期潮汐風が主に地磁気日変化への寄与する一方、半日周期潮汐風はその逐日変化、特に赤道域の逆向きジェット電流への寄与があることが明らかとなった。
次に、夏冬時のような、赤道に対して非対称な電離層ダイナモのシミュレーションを行い、以前から予測されてきた朝夕及びSq電流渦中心付近の沿磁力線電流をシミュレートすると共に、それらが実際の地磁気日変化場に影響していることを示した。
地磁気Sq場の原因としての電離層ダイナモのメカニズムを探るため、色々なパラメター、特に地球主磁場強度や、電離層電気伝導度を変えたシミュレーションを行い、主磁場強度が減少すると地磁気日変化は大きくなることや、電離層ホール電気伝導度は、地磁気日変化の形はあまり変えず、強度を増大させる働きが主であることを示した。これらのシミュレーションは、電離層ダイナモのメカニズムを解明する上で、貴重な手がかりとなるものである。
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電離層子午面電流渦の発見
Magsat精密磁場観測衛星のデータを解析することにより、夕方側磁気赤道付近で上昇し、両半球高緯度側に向かってF層をほぼ磁力線沿いに流れ、E層で閉じる大規模な子午面電流渦を発見した。この電流の強度は、太陽活動度と良い相関があり、F層におけるダイナモ作用を取り入れた3次元電離層電流の数値計算によりほぼ再現できることがわかった。Magsat計画の責任者R. Langel博士(NASA)は、これを、Magsat衛星データを用いた外部磁場の研究中の最大の成果であると評価している。
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中緯度電離層電場不規則構造(MEF)の発見
低高度衛星(DE-2、Freja)および信楽MUレーダー観測データを用いて、夜中付近の中緯度電離圏に10-100 km程度のスケールの電場不規則構造を発見し、それらが、伝搬性の電子密度擾乱(TID)と密接な関係があることを明らかにした。この不規則構造は沿磁力線電流を伴い、南北共役に出現すること、ポインティング束は、片半球から反対半球に流れていることも明らかにし、MEF(Mid-latitude Electric field Fluctuations)と命名した。この不規則構造の成因として、Perkins不安定が有力であることを、数値実験により示した。
この研究は、MUレーダー観測から存在が明らかにされた沿磁力線不規則構造およびF層の不規則構造とも密接な関係があることが明らかになりつつあり、これらの総合的観測研究の進展に重要な役割を果たした。
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MUレーダーを用いた電離層構造の研究
京都大学超高層電波研究センターのMUレーダーを用いた電離層電子密度の観測から、a.日没時にF領域最大電子密度が増加し、同時に最大電子密度高度が下がる現象、b.夜中付近の電子密度高度プロファイルが東西方向で異なる現象を見出した。現象a.は東と西から流れ込むプラズマ流の収斂によって、現象b.は東西方向に伝播する波動によって解釈できる。また、同時に観測したイオンドリフトについて、ほぼ同じ緯度のアレシボの結果との差異を論じ、宮津における地磁気観測と比較してその差から、中性風の効果を推定した。これらのデータは、Oliver et al.による電離層波動、および電離層電場の研究にも使われた。また、正午付近で、F層電子密度が急減少するいわゆるbite out現象を検出した。日本の5観測所のアイオノグラムと合わせた解析により、この現象が高い高度から先に、また、秋田-沖縄の緯度範囲で高緯度から先に起こっていることを見つけ、これを極方向への中性風によって解釈した。これらの研究は、MUレーダーの威力を示した初期の研究として注目される。
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EISCATレーダーによる電離層電流と地磁気変化の関係に関する研究
垂直沿磁力線電流、一様電離層電気伝導度という理想化された条件下では、電離層電流のうち、Hall電流だけが地上の磁場を作り、Pedersen電流の地上磁場効果は沿磁力線電流により完全にキャンセルされると考えられている(Fukushimaの定理)が、実際にこれがどの程度実現されているのかは、未知の問題として残っていた。この問題を調べるため、ノルウェーのEISCATレーダーからの電子密度、温度、イオンドリフトのデータを用いて、電離層Hall電流、Pedersen電流を計算し、レーダー観測との比較のため特別に配置された7地磁気観測所のデータとの相関を調べた。その結果、①電離層電流と地上磁場との相関は、電流中心とレーダーとの相対位置に依存する。②Hall電流と地上磁場とは高い相関を示す。③Pedersen電流と地上磁場との相関係数は低いが、電流がレーダー付近にある時はかなり高くなり、Hall電流の20-30%程度の地上磁場を作る。④靜穏時の夜間レベルは、地磁気データ解析の際のbase value として適当である等のことがわかった。この結果は、高緯度電離層電流と地上磁場の定量的関係、および、沿磁力線電流が作る地上磁場のPedersen電流による遮蔽効果の考察の2点で意義が大きい。
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地磁気静穏時日変化(Sq)場の長期間に亘る解析
今まで、地磁気Sq場の球関数解析は1日分のデータを使うか、仮の観測所のデータを仮定して行われてきた。これに対し、実際の観測所の1時間の値のみをもちいた解析法を開発して長期間の地磁気Sq場の球関数解析をおこない、地磁気Sq場を表現する主に電離層電流を表現している地球外部とそれによって地球内部に誘導された電流を表現している外内2つの等価電流系を求め、その太陽活動度に伴う変化から数日程度の変動までを調べた。
まず、地磁気静穏日が長く続いた1980年3月1-18日について、地磁気Sq場の逐日変化に、日とUTについて帯状構造を見いだした。また、地球内部場に海洋中の誘導電流の効果があることを見つけた。この効果は以前から予言されてはいたが、実際に存在することが示されたのは初めてである。
次いで、1964年及び1980年の太陽活動度極小、極大の2年間について、上の方法を南北非対称の場合に拡張して地磁気Sq場の球関数解析を行い、地磁気Sq場のUT、季節、及び太陽活動度依存性を調べると共に、1970年3月1-18日の解析で見つかった帯状構造が南北非対称なものであることを見いだした。このような構造は、Planetary waveのような大気波動のSqへの寄与を示唆している。
さらに、1980年から1990年までの11年連続した期間の解析から、地磁気Sq場が太陽活動度の1周期間の変化に対応してなめらかにその強度を変えること、季節変化においては夏型、春秋型、冬型の遷移は太陽複写輻射の変化に対応して起こるのではなく、あたかも地上気温と対応しているかのように1-2ヶ月遅れること、南北両半球の等価電流渦中心のずれが電離層ダイナモの夏冬差から生じる沿磁力線電流の影響として理解できるような季節変化をしていることなどが示された。
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地磁気静穏時日変化(Sq)場の生成機構の研究
地磁気Sq場が、電気伝導度の高い電離層において中性風が地磁気主磁場と作用して引き起こすダイナモ作用に起因することは以前から知られていたが、その詳しい機構や、主磁場変化に対する応答は充分調べられていなかった。そこでます、電離層では電気伝導度が異方性を持つが、特にそのうち電場と垂直方向に電流を流すホール伝導度が電離層ダイナモにおいてどのような役割を演じているかをシミュレーションによって調べた。その結果、基本的にホール伝導度なしでも観測される地磁気Sq場と同様な電流系は作りだされる一方、ホール伝導度が存在すると2-3倍に強くなるとともに、観測されるような赤道ジェット電流が形成されることが示された。このことは、特別視されがちな赤道ジェット電流が、ホール伝導度の存在による地磁気Sq場の全地球的強化の一部として認識できるということを示している。
次に、地磁気主磁場は永年変化により変動しているが、その強度変化が地磁気Sq場を作る電離層ダイナモにどのような影響を及ぼすのかをシミュレートした。その結果、地磁気強度か減少するとダイナモ電場(VxB)は減少するが、電気伝導度は主磁場強度の減少によって増加しそちらの効果がまさり地磁気Sq場は強くなることが示された。このことは地磁気Sq場を作る電離層ダイナモ電流を、一定の電気伝導度の存在下でダイナモ電場が流す電流という把握では理解が難しいが、素過程にたちかえって電離層ダイナモ電流を中性風との衝突が引き起こす電子とイオンの速度差に起因すると把握すれば容易に理解されることも指摘された。
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電離層電流系に対する誘導電場の寄与
電離層を流れる電流は地磁気変化の主要部を担っているが、その多くのシミュレーションではそれ自身が作りだした磁場変化に伴う誘導電場の効果を無視してきていた。そこで誘導電場の効果を組み入れたシミュレーション法を、地磁気Sq場を生み出すダイナモのような第1次近似とし電離層内で閉じていると見なせる場合だけではなく、磁気圏起源の沿磁力線電流が電離層に流す電流についても適用可能な形で開発した。その結果、導体である固体地球の存在が誘導電場の効果を1/3程度に減少させること、基本的に1日周期の地磁気Sq場については誘導電場の寄与はほとんどないが、10分程度以下の短周期の場合には誘導電場の寄与は無視できなくなり、この効果を入れないと、磁気嵐急始部(SC)のような速い地磁気変化の全地球的分布をうまく再現できないことが示された。
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- 地球内部電流の研究
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地磁気地球内部誘導場の研究
地磁気Sq場の解析から、地磁気Sq場のうち、電磁誘導によって地球内部を流れる電流について、海陸分布の影響があるらしいことが明らかとなった。そこで、海陸分布を考慮したシミュレーションを行い、データ解析結果とある程度一致する結果を得るとともに、海洋の効果を考慮すると地球内部の電気伝導度の急増はこれまで言われてきた450 kmよりも650 km付近としたほうがより観測結果と一致することを示した。これは、地震波の研究から知られる深さ450 km及び670 kmにある上部マントル不連続面の性質を考える上で重要な手がかりとなる。
また、地磁気擾乱場(Dst場)による電磁誘導のシミュレーションから、外部場の形状の違いによってDst場の場合には南アフリカ地域を除き海洋の効果は小さいことも明らかにした。
さらに、地球の浅いところの電気伝導度異常を調べるためによく用いられている、磁場の鉛直成分と水平成分の振幅比である地磁気変換関数の地方時依存性を調べ、それが地磁気日変化場によって変動していると見られることを示した。このことは、地磁気変換関数の時間変化を調べる際に考慮されねばならない見逃されがちな重要な点である。
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地震に伴う短周期磁場変化の検出
信楽および峰山観測点に設置した磁場観測装置により、兵庫県南部地震発生伴うと見られる約0.5-1.0 nTの磁場変化を震源から約100 km離れた両観測点で同時に観測した。振幅は約1桁小さいが、この地震に引き続き発生したマグニチュードの大きな余震でも同様な変動が見られることを統計的に明らかにした。この現象は、地殻の運動によるダイナモ作用で説明された。この観測は、地震に伴う電磁気学的現象として確度の非常に高いものであり、振幅は非常に小さいが確かに存在することを示した数少ない報告の一つであるといえる。
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- 海底電磁気観測による地球内部電磁誘導の研究
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北西太平洋海盆および西フィリピン海盆における海底電磁気観測
海底の形成年代が1億3千万年前と非常に古い北西太平洋海盆上で、海底電磁気観測ステーションを用いた観測をここ数年継続して行っている。その結果、[1] 海底における無人観測でも方位及び傾斜変化を精密にモニターすれば、地磁気3成分の絶対観測がある程度可能であり、それにより地磁気永年変化の検出できる事、[2] 周期数十日程度迄の長周期変化を捉える事により、下部マントル深度まで達する深部電気伝導度構造が求められる事、を示すことができた。前者は、データ空白域である西太平洋における地球主磁場の時空間分布の推定、すなわち、地磁気永年変化を含む広域地球磁場参照モデルの作成にとって重要な成果であり、後者は、近年鉱物物理分野(地球内部の高温高圧物性分野)で最近問題となっている「マントル中の含水量」推定にとっても欠かす事のできない基礎データとなる。尚、この海底電磁気観測ステーションは、現在北西太平洋海盆だけでなく、西フィリピン海盆でも稼働中である。
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日本海海底電磁気アレイ観測によるマントル深部高電気伝導度異常域の発見
地形が比較的平坦な古い海盆以外でも、例えば島弧の様な活動的プレート境界を対象とした海底電磁気アレイ観測も行った。秋田沖北緯39.5度で東北日本背弧を東西に横切る海底測線上での海底電磁気観測により、東北日本弧に沈み込んだ厚く冷たい太平洋プレートが、深さ約二百kmで脱水反応を起こした結果、背弧マントル深部に高電気伝導度異常域が形成される事を明らかにした。この成果は、特に上記(1)の [2] と関連して、沈み込むプレートが充分低温であれば、地球表層の水を地球深部まで持ち込む事が可能である点を示したという意味で重要である。また、東北日本とは逆に、薄く温かいフィリピン海プレートが沈み込んでいる西南日本背弧において、現在本学の防災研究所を始めとする地球内部電磁誘導分野の研究者と、全国規模の海底電磁気アレイ共同観測を行っている。この観測は、東北日本弧の対照実験という意味を持つだけでなく、西南日本弧特有の地震・火山分布及びその活動様式を明らかにする事も研究目的としている。
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地球表層を起源とする超高層電磁気現象の研究
2004年12月のスマトラ沖地震で、地震により励起された大気音波が電離層に電流を流し、地磁気脈動を発生させる現象を発見した。これを契機として、微気圧観測を開始し、大きな地震だけではなく、火山噴火、台風等、下層大気擾乱が大気音波共鳴現象を通して超高層プラズマに電流を流し、地磁気脈動の原因の一つになっていることを明らかにしつつある。
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- 地磁気永年変化の研究
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地磁気ジャーク現象の解析
世界100ヵ所以上の地磁気観測所で得られた40年以上の地磁気データを用いて、地磁気の時間変動がわずか1~2年で急激に変化する「地磁気ジャーク」現象を解析し、スーパープリュームと呼ばれるマントル上昇流の存在が地震波トモグラフィの研究から予想されている南アフリカや南太平洋域では、他の地域に比べてジャーク現象が遅れて現れ、かつジャークの継続時間が長いことを見いだした。ジャークは現在では地球外核内の流体運動に起因するとされ、この研究結果は比較的高温のマントル上昇域の最下層で電気伝導度が大きくなっているために、そこを通過してくる磁場変動が他の地域と比べて遅延時間と緩和時間が長くなっていると考えると説明ができる。このようなマントル最下層における大規模な電気伝導度構造が横方向に不均一性を持つことを、観測的に見いだすことに成功した。
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古代窯跡における残留磁気測定
タイ国内に多数存在するクメール時代の寺院遺跡の方位を測定することにより、クメール時代の寺院建築にもコンパスが用いられたことを示唆する調査結果を得た。窯蹟などに残された残留磁化測定からその推測を確認する目的で、窯蹟を壊さずに簡易に残留磁化を測定する装置を考案し、ハードウェアを試作した。
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