News and Announcements [in Japanese]
地磁気センターニュース

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地磁気世界資料解析センター News No.127 2011年5月24日
1.新着地磁気データ
前回ニュース(2011年3月31日発行, No.126)以降入手、または、当センターで入力したデータうち、
オンラインデータ以外の主なものは以下のとおりです。
オンライン利用データの詳細は (http://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/catmap/index-j.html) を、観測所名の
省略記号等については、観測所カタログ (http://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/catmap/obs-j.html) をご参照くだ
さい。
また、先週の新着オンライン利用可データは、(http://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/wdc/onnew/onnew-j.html)
で御覧になれ、ほぼ2ヶ月前までさかのぼることもできます。
Newly Arrived Data
(1)Annual Reports and etc.(off-line)
NGK (Mar.- Apr., 2011)、NUR、SOD、HAN、OUJ (Nov. - Dec. 2011)、
KIR (2006 - 2009)、SOD (2009)
(2)Kp index: (http://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/kp/index-j.html)
Mar. - Apr., 2011
2.AE指数とASY/SYM指数
2011年4月分までの1分値ASY/SYM指数を算出し、ホームページに載せました
(http://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/aeasy/index-j.html)。
3.2008年確定値サービス開始とProvisional Dst/AE指数算出のお知らせ
2008年の1分値・1時間値デジタルデータにつきましては、当センターに個別に報告のあった観測所
からのデータのみをサービスしていましたが、この度、INTERMAGNET経由で102か所のデータを受け取り
ましたので、同様にご利用いただけるようになりました。データサービスのWebアドレスは以下の通り
です。
http://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/caplot/index-j.html
また、この確定値データを利用して、2008年のProvisional Dst指数の新たな算出とProvisional AE
指数の再算出を行いました。以前に2008年のProvisional AE指数のプロットおよびデータを取得された
方は再取得をお願いいたします。それぞれのデータサービスのWebアドレスは以下の通りです。
http://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/ae_provisional/index-j.html
http://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/dst_provisional/index-j.html
<2008年3月のProvisional Dst指数>
<2008年3月8日のProvisional AE指数>
4.伊能忠敬の国宝「山島方位記」67巻の解析結果と、ガウス・ウェーバー作成1840年発刊の
等偏角線世界地図Atlas des Erdmagnetismusの日本付近との比較検証
(1)Atlas des Erdmagnetismus(以下ガウス図と呼ぶ)との比較理由
Gauss-Weberによる「1830年の等偏角線図」Atlas Des Erdmagnetismusと、伊能忠敬の「山島方位記」に
基づく19世紀初頭の偏角解析値と年変化の試算値から推測した、1830年の日本列島での偏角の分布を比較
すると、基本的な傾向はほぼ合うものの、ガウス図に記載の北緯45度、東経130度の偽磁極2度30分Wは、同
地点から約1200kmも南且つ、1813年時点の対馬北西部(北緯34度20分~39分東経129度12分~24分)の筆者
の解析結果である平均偏角2度30分W(伊能忠敬の「山島方位記」第五十九巻記載の磁針測量方位角の解析・
地磁気センターニュース89号拙論)とは西偏増の時間が逆転し、位置が大きく異なる。対馬付近は後述の年
約2分程度の西偏増とすると、17年後の1830年の対馬北西部では3度04分Wになってしまい、偽磁極が逆転する。
このGauss-Weberによる等偏角線世界地図はどこで観測されたデータにより作成されたものかを辿り始めた。
(2)山島方位記他による19世紀前半の日本の概略年変化と全体傾向の試算
ガウス図の様に、当時の日本列島はその西側で偽磁極が西偏を増しながら北上していたとすれば、その影
響で北日本の年変化は大きく、去っていった後方に位置する四国九州南部等の年変化はゆっくりし、比較的
に小さくなるかと考える。「山島方位記」記載の長崎から至近な地点の解析結果は、西洋人の長崎での偏角
観測結果ともほぼ整合し、ここから当時の年変化も判明する。「山島方位記」からの解析値は、佐賀県小城
市下砥川1813年1度40分51秒 W 北緯33度13分14秒 東経130度10分59秒、熊本県苓北町天草富岡1812年1度
45分48秒W 北緯32度31分43秒東経130度02分33秒 (長崎付近は狭隘な地形で「山島方位記」の測量方位角は
視程距離が短くなり、地磁気偏角の解析が困難) であった。一方クルゼンシュテルン長崎1805年1度45分36秒W、
シーボルト 長崎1828年2度10分W 両者の差から24分÷23年 = 年変化1.04分西偏増加になり、当時の長崎の
年変化が1分西偏増程度であったことがわかる。
<当時の日本列島の概略年変化>
暫定的に当時の西偏増の年変化を、概略下記程度と推定、「山島方位記」から1800年の北海道の解析値
と、1874~75年海図記載の偏角とで年変化を算出すると、函館4.05分釧路4.32分
北緯30度 以北 年変化1分 屋久島以北、九州、四国
北緯34度 以北 年変化2分 北九州市藍島以北、壱岐、対馬、中国、近畿から東北地方南部
北緯38度 以北 年変化3分 東北地方北部
北緯42度 以北 年変化4分 北海道南岸 (十勝の広尾付近は5分程度の可能性も有り)
● 現在山島方位記から判明中の1800~1813年時点の日本列島の偏角の概況は下記の通りである。
1800年の北海道には、ガウス図に表現されていない広尾付近をピークとした地域的東偏傾向が見られ
るかが今後の課題である。
3度東偏 厚岸釧路広尾 2度東偏 礼文華 1度東偏 森 1800年
0度の線は北海道渡島半島西部・奥羽山脈西麓・米沢・浜名湖西岸 1801年~1805年
1度西偏の線は島根半島から豊後水道を通過して種子島西方に至る。1805年~1812年
2度西偏の線は壱岐、対馬南部間の対馬海峡付近を通過と推定中 1813年
各地点の解析値に、前述の概略年変化を加算すると概略1830年の値になると考える。
(3)Gauss-Weber Atlas des Erdmagnetismus。
<Tag.13. Karte fur die berechneten Werthe
der Declination. 1ste Abtheilung / Google>
Gauss-Weber Atlas des Erdmagnetismus nach den elementen
der Teorie entworfen.1840 (理論要素により作成の地磁気世
界地図1840年刊行) に Tag.13 Karte fur die berechneten
Werthe der Declination. 1te Abttheilung. (図13地磁気偏
角計算第1部) の地図とVergleichung der Rechnung und
Beobachtug (計算と観測の比較表)とがあり、世界中の103地
点の方位角(偏角のこと)、俯角、全磁力の強さに付いて計算
値、観測値、差、観測地点名の緯度経度分単位の位置が記載
されている。
東北帝国大学蔵版 科学名著集第四冊カール、フリード
リッヒ、ガウス原著ポテンシャル論・地磁気論大正三年の
P77の地球磁気総論に同じ表(99地点)とその解説があり、
観測地点の位置を地図上に再現した。
東経90度付近から東経180度付近迄で北半球、南半球の観
測地点を拾って下記表 <Fig.1> に纏め、北半球の観測地点
の分布を下記地図 <Fig.2> に纏めると、観測地点はいずれ
も日本の遥か北西から北東にかけてのアジア大陸に分布してい
た。南は南半球のオーストラリア領ココス島迄観測地点は無く、
更に東はオアフ島以外は南北米大陸迄無い。
<Fig1 :Atlas des Erdmagnetismusの北東アジアの観測地点と偽磁極の位置>
<Fig.2:Gauss und Webber Atlas des Erdmagnetismusの観測地点名と位置>
フンボルトの航海やビーグル号航海記等のデータも計算と観測の比較表の範囲に網羅されており、日本
及び日本周辺での等偏角線は描かれているが、観測データは一切無く、また、西偏の偽磁極としてAtlas des
Erd magnetismus に2度 30分Wと記された黒竜江省牡丹江の東付近の北緯45度 東経130度 での現地観測データ
も無く、これらは飽くまで計算結果であったことになる。
(4)今後の展望
ガウス図の推定計算により導いた等偏角線の地域では、非常に詳細迄期待することは難しいとすれば、
ガウスとウェーバーが蒐集したデータ以外の航海者や、測量者の地磁気偏角の観測結果のみならず、磁針測
量方位角台帳からの解析も含め、世界中のデータを計算に組み入れることで、等偏角線や偽磁極に付いてよ
り正確な実像に迫ることができるのではないか。(センターニュース119号拙論)日本列島の場合は伊能忠敬
の「山島方位記」全六十七巻からの解析値や長崎での1805年krusenstern、1828年のVon Sievold、1845年の
E.Belcherの各偏角観測データその他が有効になると考える。
出典及び参考:
① Gauss und Weber Atlas Des Erdmagnetismus nach den entworfen Google
② 東北帝国大学蔵版 科学名著集 第四冊 カール、フリードリッヒ、ガウス原著ポテンシャル論理学
博士 愛知敬一 大久保準三 地磁気論 理学博士 山田幸五郎 訳 理学博士 長岡半太郎
校閲 東京 丸善株式会社
③ 地磁気観測所要報Memoirs of the Kakioka Magnetic Observatory Vol.21[Ⅰ]1984
今道修一「伊能忠敬時代の日本付近における地磁気偏角について」
④ 東京地学協会「伊能図に学ぶ」伊能忠敬の顕彰史再考 伊能図と地磁気の人脈 西川治
(辻本 元博 - 日本国際地図学会)
5.「超高層大気長期変動の全球地上ネットワーク観測・研究」(略称:IUGONET)プロジェクト報告
日本の5機関7組織が参加しており、地磁気センターも参加しているIUGONETプロジェクトでは、全地
球に展開している磁力計、レーダー、光学観測装置、太陽望遠鏡等を用いた超高層大気の地上観測ネット
ワークにおいて、これまで長年にわたって蓄積された多種多様な観測データに関するメタデータ・データ
ベースシステムを構築しています。
去る2011年4月にIUGONETメタデータ・データベースのβ公開を行いました。このデータベース上で
検索を行うことにより、地磁気センターが所有している様々な地磁気観測データに関するメタデータ(観測
データの所在情報等)と、IUGONET参加機関のメタデータを同時に検索することが可能になりました。どなた
でも利用可能ですので、ぜひ http://search.iugonet.org/iugonet/ にてお試し下さい。
システムの改良、メタデータ充実の余地はありますが、今後改良を重ねていきますのでよろしくお願いします。
< IUGONET Metadata DB検索画面 http://search.iugonet.org/iugonet/>
本紙面で書ききれなかった話題に関しては、ホームページ (http://www.iugonet.org/) の進捗状況にアクセス
して頂ければ幸いです。
(小山幸伸)
本ホームページについては右記まで: iyemori@kugi.kyoto-u.ac.jp