News and Announcements [in Japanese]
地磁気センターニュース
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地磁気世界資料解析センター News No.109 2008年5月22日
1.新着地磁気データ
前回ニュース(2008年3月28日発行, No.108)以降入手、または、当センターで入力したデータのうち、主なもの
は以下のとおりです。オンライン利用データの詳細は
(http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/catmap/index-j.html) を、観測所名の省略記号等については、観測所カタログ
(http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/catmap/obs-j.html) をご参照ください。
また、先週の新着オンライン利用可データは、
(http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/wdc/onnew/onnew-j.html)で御覧になれ、ほぼ2ヶ月前までさかのぼることも
できます。
Newly Arrived Data
(1)Annual Reports and etc.
HAN, OUJ, NUR, SOD (Oct., 2007), NGK (Feb., 2008),
ABG, HYB, JAI, KOD, NAG, PND, SAB, SIL, TIK, UJJ, VSK (2003)
(2)Kp index: (http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/kp/index-j.html)
Mar.- Apr., 2008
2.AE指数とASY/SYM指数
2008年4月分までの1分値ASY/SYM指数を算出し、ホームページに載せました
(http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/aeasy/index-j.html)。また2008年3 月までのProvisional AE指数も上記アド
レスからダウンロード可能です。
3.データサービスのデータ期間延長
かねてからホームページでサービスしております地磁気1秒値
http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/shplt/index-j.html
において一度にサービスされる最大期間がプロット、データ出力ともにこれまでの360分 (6時間) から1440分 (1日)
に延長されました。また、地磁気1分値
http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/mdplt/index-j.html 及びASY/SYM,AE指数(1分値)
http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/aeasy/index-j.html においては、データ出力の場合のみ一度にサービス
される最大期間がこれまでの31日間から366日間に延長されました。
4.データカタログNo.28の印刷と配布
当センターで収集・整理・サービスしております地磁気データのカタログNo.28 (Apr., 2008) を印刷し、
関連機関に配布しました。残部がまだ多少ありますので、新たにご希望の方は郵便またはファクシミリにて
当センターまでお申し込み下さい。なお、当センターのホームページから、上記カタログのPDF版
(http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/wdc/pdf/Catalogue/Catalogue.pdf) が利用できるほか、オンライン利用可
データのカタログは原則として毎週更新されており、8週間前から先週までの新着データ一覧も下記URLからご覧に
なれます。
http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/wdc/onnew/onnew-j.html
また、下記URLアドレスから、指定された緯度・経度の範囲内の観測所についての印刷されたカタログに準じた
観測所情報のリスト出力が可能です。
http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/catmap/obs-j.html
5.「伊能忠敬の『山島方位記』から19世紀初頭の地磁気偏角を解析し、活用する その5」
・「山島方位記」からの地磁気偏角の解析
江戸時代以前の日本周辺の地磁気偏角の観測データは、極めて希少で茫洋としている。伊能忠敬は、1800年〜
1816年の北海道南岸から屋久島迄と伊豆七島を含む各地で、山や島を測量した磁針方位角台帳『山島方位記』
(67冊・約7700頁・推定データ数約20万件)を残しており、中には5分単位での記載部分もある。
量、精度ともに世界にも稀な第一級の古地磁気偏角解析の元資料であろう。偏角は磁針方位と真方位角との差で
あるが、僅かな偏角を10分単位の精度を目標に解析するには、先ず伊能忠敬の測量基点の詳細位置を、10M以内
程度に絞ることを目標に、「山島方位記」「測量日記」「伊能図」「地形図」「旧版地形図」「住宅地図」「町
絵図」等を照合、現地文化財担当者等の協力で探索し、景観再現ソフトと現地での測量対象の視通確認に、より
絞り込んだ地点でGPSによる緯度経度測定をする。断崖や茂みや立ち入り禁止等で、到達できない場合は、国土
地理院HPの地図閲覧により求めた緯度経度にとどめるが、精度は劣らざるを得ない。解析は大変手間を要する
作業が続く。
・松江の地磁気偏角解析にあたって
松江での測量詳細位置は、「山嶋方位記」に「松江城下詰宿京屋灘座敷測量」とあるが、まさか室内の
座敷上での測量とは考えられない。測量日記を辿ると伊能忠敬は測量隊と文化三年六月十八日「松江城
下本陣京屋萬五郎」に宿泊。翌日出発、島根半島を測量するが、日瘧ヒオコリ(間欠熱、隔日に発熱、多く
はマラリア)となり隠岐島への渡海測量を弟子達に任せ宍道湖東端の松江末次京店の油屋孫左衛門に搬送
され加療。七月二十三日京屋万五郎に宿変えし八月七日朝出発迄逗留している。謎めいた記述「京店」と
測量基点を示す「京屋灘座敷」「京屋萬五郎」は松江市文化財保護審議委員乾隆明氏(松江藩財政史)に
ご教示いただき共同で詳細位置を探索し、測量日も「京屋萬五郎」滞在中のいずれかの日と判明した。
・松江城下詰宿京屋灘座敷(末次本町京屋万五郎)での1806年測量時の地磁気偏角
1. 地磁気偏角 0°58′59.4″W (測量対象別12種類の平均値・データ総数28件)
2. 測量基点 末次本町京屋万五郎灘座敷。島根県松江市末次本町11フコク生命保険相互松江支社敷地
の大橋川岸(現地GPS測定) 緯度N35°28′07″ 経度E133°03′11″ 精度6m
3. 測量日時 京屋万五郎滞在期間の何れかの日。文化三年六月十八日(1806年8月2日)〜六月十九日(8月
3日)朝、七月二十三日午後(1806年9月5日)〜八月七日朝(9月18日)
4. 計算方法等 真方位計算=国土地理院HP測量計算。測量対象地点の緯度経度=国土地理院HP基準点観測
データ等による。
(辻本 元博−日本国際地図学会会員)
6.「松江城下詰宿 京屋萬五郎 灘座敷について」
松江の町人町は宍道湖東端の大橋川に掛かる大橋を挟んで北側(松江城側)と南側(現在の松江駅側)の両岸
から成り、日本海から中海・宍道湖・斐伊川と出雲国を貫く内水面交通の結節点として発展した。松江城側の
北岸を「末次本町」スエツグホンマチと呼び、主に藩や家中屋敷の御用を勤める城下町であるのに対して南岸
は「白潟本町」シラカタホンマチと呼び、室町時代には既に明国に迄知れ渡った他国問屋が建ち並ぶ商人町と
して発展していた。表通りに連なる大店の後ろは住居と土蔵や納屋で裏の湖岸は「灘」という船着場になって
いた。余程の豪商になると湖岸の水辺に趣味の良い庭をつくり、「灘座敷」と通称する離れ座敷を建てた。
他国からの旅行者や商人は南岸の白潟の八軒屋町に泊まり、他藩からの使者や幕府巡検使など藩のお客様は
北岸にある豪商の灘座敷を宿舎にあてた。
松江藩は幕府天文方役人である伊能忠敬一行を丁重に扱い、末次本町の町年寄・本陣京屋萬五郎の灘座敷を
詰宿として提供した。乾所蔵の「明和七年末次町家絵図」(1770年)には京屋萬五郎と記されており、その位置は
現フコク生命保険相互会社松江支社敷地であることが確認できた。この京屋萬五郎の所在地は元禄年間の松江
末次本町絵図には京屋万右衛門居宅、表七間口・惣入水際迄三拾八間半、(その西側の道には)此筋京屋乃すじと
ゆふ とある。正式町名は末次本町であるものの、既にこの元禄の町絵図には表通りに「京見せといふ」との記載
が有り、現在も続く「京店」キョウミセの通称が記載されている。「京店」の由来は、京小間物を扱う店が軒を
連ね、ひさしを深くして買い物客が雨具無しで歩ける京の三条通に似た御国一番の繁華街であったからとも或い
は京屋萬五郎の店がある町であったからともいわれる。京屋は主に瀬戸内海からの塩を一手に仕入れ藩内で販売
した塩問屋であった。御国に利益をもたらす順に百種類の産業を番付けにした『雲陽国益鏡』には「京屋塩口銭」
が上げられており、京屋が松江藩に上納した塩の取り扱い手数料が如何に莫大なものであったかを物語る。上記
比定による松江市末次本町11番地のフコク生命保険相互会社敷地南西隅の旧「京屋乃すじ」の南東端の大橋川
の川岸にて辻本元博氏とGPS緯度経度測定に行くと、今も伊能忠敬「山嶋方位記」記載の様に、右手遥か遠くに
三瓶山・仏教山、湖南の山々、左手には茶臼山や遥か秀麗な姿の大山を望み、まさに瘧の病が癒え、時を惜しん
で測量を再開した伊能忠敬の眼に映った光景そのものであった。
<参考文献> 山島方位記ニ十乙丑丙寅山嶋方位記自長州至雲州十三(伊能忠敬記念館蔵)・明和七年(1770年)
松江末次本町絵図・松江末次本町絵図(元禄年間)「絵図の世界」島根大学附属図書館・佐久間
達夫校注 伊能忠敬測量日記
(松江市・乾隆明)
7.着任のご挨拶
この度、地磁気世界資料解析センターに准教授として着任致しました。足掛け十年に亘って住み慣れた
雪国を離れ、この四月から俄か都人と相成りましたが、大きな街の大きな大学で生起する日々の慌ただしい
変化に、目を丸くする事の多い今日この頃です。
地球内部電磁誘導分野の研究者の一人として、これまで当センターから恩恵を受けるユーザーないし当センター
にデータを供給する側にあった私が、各観測者/研究機関が心血を注いで取得したデータを受け取り、それを
全世界に向けて提供する立場に立つ事となりました。当センターに蓄積された、或いは、日々到着するデータの
貴重さを思う時、身が一段と引き締まるのを覚えます。
IGYから五十年を経た今日、当センターを取り巻く環境も大きく変わろうとしています。ICSUの傘下で
発展を遂げてきたWDCも、日本や中国で複数の拠点を新設する動きがある一方で、FAGSやCODATAと
いった他の国際データセンター組織とのより密な連携、或いは、それを超えた再編・統合が計画されています。
また、社会のデジタル化が加速するのに伴い、eGYによるWDC組織のレビューも予定されています。一口に
デジタル化の加速とは申せ、蔵書の多さを汗牛充棟と譬えた時代からすれば、数十GBの情報量を誰もが文字通
り掌にする事を可能にした現代の情報革命は、「データとは何か」という問いを我々に突きつけるものでもあり
ます。単なるデジタル化や通信のブロードバンド化を推し進めた果てに、データセンターの未来があるとも思え
ません。どうすれば学界・社会ひいては時代が要求する「データ」を提示し続けてゆけるのか、言い換えれば、
どうすればデータセンターが今日的で新しい価値をこれからも創出してゆけるのか、を考えながら、当センター
での職責を果たして参りたいと思います。
個人的には、海底長期電磁気観測や外部磁場擾乱に対する全球電磁応答の研究を、引き続き行っていきます。
現在の心境を要約すれば、次の様になるでしょうか。「当センターともども、今後共どうぞ贔屓に。」
(藤 浩明)