News and Announcements [in Japanese]
地磁気センターニュース
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地磁気世界資料解析センター News No.106 2007年11月29日
1.新着地磁気データ
前回ニュース(2007年9月28日発行, No.105)以降入手、または、当センターで入力したデータのうち、
主なものは以下のとおりです。オンライン利用データの詳細は
(http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/catmap/index-j.html) を、観測所名の省略記号等については、観測所カ
タログ
(http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/catmap/obs-j.html) をご参照ください。
また、先週の新着オンライン利用可データは、
(http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/wdc/onnew/onnew-j.html)で御覧になれ、ほぼ2ヶ月前までさかのぼることも
できます。
Newly Arrived Data
(1)Annual Reports and etc.
NGK (Aug.- Oct., 2007), LRV (2006), TNB (2001 - 2005), AQU (2006)
(2)Kp index: (http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/kp/index-j.html)
Sep. - Oct., 2007
2.AE指数とASY/SYM指数
2007年10月分までの1分値ASY/SYM指数を算出し、ホームページに載せました
(http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/aeasy/index-j.html)。
また2007年9月までのProvisional AE指数も上記アドレスからダウンロード可能です。
3.Provisional Geomagnetic Data Plots について
世界各地で測定された地磁気1分値データをプロットしたProvisional Geomagnetic Data Plotの2007年9月までの
ポストスクリプトファイルが利用できるようになりました。図の形式は2日分が1画面です。
(ftp://swdcftp.kugi.kyoto-u.ac.jp/data/pplot)。
4.Provisional Dst指数WWWページリニューアルおよび2006年12月までの算出終了のお知らせ
このたびProvisional Dst指数のWWWページがリニューアルされましたのでお知らせします。URLアドレスは
以下の通りです。
http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/dst_provisional/index-j.html (日本語)
http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/dst_provisional/index.html (英語)
デジタルデータにつきましては、
http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/dstae/index-j.html (日本語)
http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/dstae/index.html (英語)
から任意の期間についてプロットおよびダウンロードできるようになっています。
<図1: 2006年12月のProvisional Dst指数>
Provisional Dst指数は、現在2006年12月までの利用可能です。算出に当たっては、その時点で利用可能な
観測所のデータのうち、最も確定値に近いレベルのデータ(速報値(quicklook) -> 暫定値(provisional) - > 定値
(final)の順)を利用しています。今回の算出分(2006年5月から12月)に関しては、一ヶ所の観測所を除き、すべて
確定値のデータを用いています。今後も暫定値、確定値が観測所から報告され次第、Provisional Dst指数を算出・
公開していく予定です。
Provisional Dst指数は、各観測所(Kakioka [JMA, Japan], Honolulu, San Juan [USGS, USA], Hermanus [RSA,
South Africa], Alibag [IIG, India])および情報通信研究機構、INTERMAGNETの協力により算出されています。
関係各者に深く感謝いたします。
5.INTERMAGNET会議報告
INTERMAGNETとは、世界中で地磁気観測をある一定以上の基準で行い、観測データをリアルタイムで収集・
公開することを目的とする国際組織で、その名称はInternational Real-time Magnetic Observatory Network
に由来しています。INTERMAGNETの内部組織は、大きく4つに分けることができます。すなわち、(1) 全体の
意思決定を行うEXCON (Executive Council)、(2) 組織としての実務を担当するOPSCOM (Operations Committee)、
(3) 実際に地磁気の観測を行うIMO(INTERMAGNET Magnetic Observatory)、(4) IMOから地磁気データをリアル
タイムで受け取り、データ公開を担当するGIN(Geomagnetic Information Node)、です。EXCONは、現在、イギ
リス・アメリカ・フランス・カナダから1名ずつの合計4名で構成されています。OPSCOMの実務は少し例を挙げ
ると、地磁気データの質の評価、地磁気データフォーマットの策定、INTERMAGNET WWWサイトの維持、公開用
データの整理とデータCD-ROMの作成、テクニカルマニュアルの作成と改訂、地磁気観測機器の評価、IMO
申請書の審査、地磁気観測技術の教育、というように非常に多岐に亘っているため、11名のメンバーが5つの
サブコミッティに分かれてこれらを分担しています。IMOには、現在43カ国から109観測所が参加しています。
日本のIMOは、柿岡・女満別・鹿屋の3観測所です。IMOとして参加するためには、絶対観測の実施、ベース
ラインの変動が5 nT/年以内、分解能が0.1 nT、72時間以内のデータ公開など、いくつかの条件を満たす必要
があります。GINは日本に2ヵ所(平磯、京都)、イギリス・フランス・アメリカ・カナダに各1ヵ所の合計6カ所
が設置されており、人工衛星回線やインターネットを経由してリアルタイムデータを収集しています。以上の
ように、INTERMAGNETは世界中の観測所からある一定基準以上の質を持つ地磁気観測データを長期間に亘って生み
出していくことに大きな役割を果たしています。
INTERMAGNETでは、毎年夏から秋にかけて会議が開催されており、EXCONとOPSCOMのメンバーが一同に会して
地磁気観測に関する話し合いを行っています。今年は、2007年10月24日から26日の3日間、中国・北京で開催
されました。(昨年と一昨年の開催地はポーランド・ワルシャワ、メキシコ・メキシコシティでした。
地磁気観測に関係ある機関がホストを務め、毎年場所が変わります。) 今回、私はOPSCOMのメンバーとして、
また、京都GINの責任者として北京での会議に参加してきました (写真1)。今回も3日間、多くの議題について
話し合いが行われましたが、その中でも特に重要な決定事項は以下のものでした。
GINの役割:これまで6ヵ所のGINがそれぞれ独自のデータサービスページを立ち上げていましたが、これを
一ヵ所に統一することになりました。INTERMAGNETのホームページ(http://www.intermagnet.org)から、すべて
のIMOのデータが取得できるようになります。ただ、これまで行ってきたリアルタイムプロット表示について
は、GINからのサービスも継続されます。
1秒値データ:INTERMAGNETがこれまで扱ってきたデータは1分値のみでした。今後は1秒値データも取り
扱うことになっており、数年前から話し合いが続いています。今回の会議での進展は、これまでと単純比較して
データ量が60倍になる1秒値データをリアルタイムで受け渡しする標準スキームが決まったことです。その他にも
多くの関連議題 (データの受け渡しにはIAGA2002フォーマットを使う、テクニカルマニュアルへの記載、0.01秒
以内という時刻精度の基準、0.01nT以下というノイズレベルの基準、観測機器の周波数応答など)がありました。
配布メディアの変更:収集された地磁気データは、1991年以来、一年に一回の割合でCD-ROMによって関係機関
および希望者に配布されてきました。IMOの増加に伴い、配布メディアをCD-ROMからDVDに変更することが決定
されました。
新たなIMO:ブルガリアのPanagjurishte観測所(PAG)、トルコのIznik観測所(IZN)が新たにIMOとして参加する
ことになりました。
今回の会議では、中国地震局(China Earthquake Administration)がホストを務めました。中国地震局は30-40
ヵ所の地磁気観測所を中国全土に展開しており、これまでの観測体勢を現代的なものに整備して、順次IMOへの
申請を行うそうです。中国には、これまで3ヵ所しかIMOがありませんでしたが、今後は幅広い経度・緯度
からの質の高いデータが期待できそうです。
<写真1:北京での INTERMAGNET 会議の様子>
3日目の午後には、中国地震局が運営する地磁気観測所のうち、静海(ジンハイ、Jinghai)観測所を見学してきま
した (写真2)。静海観測所は、天津市静海県に位置し、北京からは南へ車で3時間ほどかかります。地理的緯度、
経度は (116.9°N, 38.9°E) です。観測所には、ピラーを6つも備えている絶対観測室、気温変化による影響を最
小限にするために地下室に4台の磁力計を設置した変化観測室などがありました (写真3)。また、今後中国各地に
配置していく磁力計を比較校正するために新たな建物を建築中とのことで、地磁気観測所の整備に対する強い意欲
が感じられました。北京を昼過ぎに出て観測所に到着したのが午後4時ごろ、ドライバーの道の不案内もあって
北京に戻ってきたのが夜中の2時前という強行軍でした。
<写真2:静海観測所の本館とINTERMAGNET <写真3:静海観測所の敷地内の風景。
会議の参加者。正式名称は静海地震台 左が絶対観測室>
というらしい>
参考WWWページ
INTERMAGNET:http://www.intermagnet.org/
GINリスト:http://www.intermagnet.org/Gins_e.html
IMOリスト:http://www.intermagnet.org/ImotblObs_e.html
Kyoto GIN:http://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/imagdir/imag.html
6.ロシア雑感
今年の9月13日から21日にかけての九日間、筆者は初めてモスクワを訪問する機会を得た。同行者は、東京
大学地震研究所の歌田さんと、海洋研究開発機構の後藤さんである。目的は、「極東ロシアの地磁気データ入手」
であった。以下、この訪問中に筆者が垣間見た現代ロシアに対する印象を、徒然なるままにまとめてみた。
成田を三十分遅れで出発した日航機で降り立ったモスクワ・シェレメチェボ第2空港では冷たい雨に迎えられ、
まだ真夏日が続いていた日本から到着した我々は三人が三人共たちまち震え上がってしまった。勿論、迎えてくれた
のは雨だけではなく、訪問先のロシア科学アカデミー・シルショフ海洋研究所のN. Palshin博士も来てくれていた。
空港から宿舎への道すがら見たモスクワ市郊外は、資源大国ロシアらしい活況を呈していた。社会主義時代に
建てられた画一的な古い団地に加え、新しい高層住宅がそこかしこに建設中であり、聞けば現在モスクワ市は郊外、
特に南西、に向って拡大中との事。モスクワの外環状線に当たる高速道路を北西から南東に向って反時計回りに走る
車中から、我々が建設ラッシュを目にしたのも当然であった。片側五車線はあるこの高速道路も、様々な建築資材を
積んだ大型車両や、真新しい輸入乗用車で大渋滞である。ナンバー・プレートも、増え続ける車の数に発行が追いつ
かず、次から次へと番号の付け方が変わるので、どの区域でいつ頃発行されたナンバー・プレートなのか、もう見当
がつかない、とPalshin博士が教えてくれた。モスクワ市の現在の人口は公称1200万人だが、これに加えて少なく
とも300万人の不法移民が居るらしく、彼らの多くはロシア共和国以外の旧ソ連邦の国々からやって来ているとの
事だった。初日のモスクワは、ロシアと言えばソ連邦崩壊直前のウラジオストックを訪れたきりの筆者に、全く
異なるダイナミックな印象を与えてくれた。
<写真1: シルショフ海洋研究所(左)とロシア科学アカデミー本部(右)。
アカデミー本部ビルの最上部には金色に輝く装飾が施されており、”Golden Brain”
と俗称されている。これらの写真は、全て海洋研究開発機構の後藤忠徳さんの撮影
によるものである。>
翌日は、シルショフ研究所(写真1参照)訪問である。略称は米国のスクリップス海洋研究所と同じ”SIO”だが、
最後のOは”Oceanography”ではなく”Oceanology”なのだそうだ。この言葉はロシア人の全くの造語であり、Palshin
博士に依れば、「海洋に関する」という意味の”Oceanography”よりずっと意味が広い天才的な発明品、との事。実際、
この研究所には、Palshin博士の様に今では陸上の地磁気・地電流法を生業としている海洋研究とは縁も所縁も無い
研究者も数多く在籍しているらしい。とは言えPalshin博士自身は、学生の頃にシルショフに来て以来、最初の十数年
間はずっと海洋学者として乗船を続けていた大航海者でもある。筆者も東大海洋研の出身であり、今日迄の通算乗船
日数は千数百日を数えるが、とてもPalshin博士の乗船日数にはかなわない。海洋研究所としてのシルショフ研究所
は、所有する6000m級有人潜水船「ミール(写真2参照)」でも夙に有名である。
<写真2: 北極点にロシア国旗を置く調査旅行に参加したミール(左)。
この優秀な潜水船は映画「タイタニック(右)」の撮影にも使用された。>
シルショフ研究所では、週末を除いて、「日露地球電磁気セミナー(写真3参照)」が開催されたが、我々にとって
の大きな驚きは、極東ロシア(ウラジオストック)の地磁気水平成分時間変化は、日本(柿岡・鹿屋・女満別)における
変化とも中国(北京・長春)における変化ともかなり違っている可能性がある、という点であった。かなり広い周期帯に
亘って、ウラジオストックの地磁気北向き成分の振幅は、女満別でのそれの三分の二程度しかない場合もある事が分かっ
た。これが本当であれば、外部磁場変化の不均質だけでは説明が付かない為、北東アジアにおける広域的な電気伝導度
異常の存在を考慮せざるを得ない。しかし、一般に空間的な一様性が高いと信じられている外部磁場時間変化の振幅に、
これ程大きな地域性を生じさせるには、非常に大きな地球内部構造の横方向コントラストが必要な為、使用された地
磁気データの較正状況を含めて、今後慎重に吟味/検討を加える必要がある。
<写真3: シルショフ研究所で行われた日露地球電磁気セミナーの風景。左:こちらを振り向いているのが
歌田さん。そのすぐ後列左端が筆者、筆者右隣の後姿がPalshin博士。右端は、極東アジアにおけ
る地磁気水平成分の時間変化異常についての報告を行ったI. Varentsov博士。右:休憩時間に地図
を前にして、モスクワ市中心部の説明をE. Sokolova博士から受ける筆者と歌田さん。二人共上機嫌
なのは、昼食時に飲んだクバス*が原因の一つ。>
*クバス:麦芽から作る飲料。さっぱりした甘さでモスクワっ子には人気だが、発酵の度合いが店
或いは日によってマチマチであり、かなり熟成したものに当たると、ノンアルコールであはずにも
関わらず、酔っ払ってしまうので注意されたい。
モスクワ滞在最後の夜は、Palshin博士の計らいで、モスクワ音楽院大ホール(写真4参照)で催された演奏会を聴きに
行く事ができた。このホールは、毎年六月にチャイコフスキー国際コンクールが開催される事でも名高い。今年のヴァイ
オリン部門の優勝者が、日本人の神尾真由子さんであった事も記憶に新しい。チャイコフスキーに限らず、スラブ民族は、
音楽や文学といった芸術分野でも数多くの天才達を輩出している極めて優秀な民族である。また、学術分野でも、特に語学
や数物系に、画期的な業績を残している人々でもある。今から百年程前に提出された宇宙の形に関する「ポアンカレ予想」
に、近年になって最終的な証明を与えたのもロシア人数学者(G. Perelman博士〜2006年フィールズ章受賞者)であった。
<写真4: モスクワ音楽院前にあるチャイコフスキーの銅像(左)とモスクワ音楽院大ホール(中央)。
右は、裏側から撮影したチャイコフスキー像。後ろから見ると、実はチャイコフスキー氏が、
非常に裾の長い立派なマントを羽織っている事が分かる。>
そこで思い出したのが、チーホノフの事だった。筆者が生業としている地球内部電気伝導度構造分野で最もよく利用
されている構造探査法である「地磁気・地電流法(Magnetotelluric Method)」は、一般にはカニャの次の論文がその
嚆矢とされている。
Cagniard, L. (1953) Basic theory of the magneto-telluric method of geophysical prospecting, Geophysics, 18,
605-635.
しかし、実際にはチーホノフがその三年前に次の論文を、ソ連科学アカデミーの紀要に発表している。
Tikhonov, A.N. (1950) The determination of the electrical properties of deep layers of the Earth’s crust,
Dokl. Acad. Nauk, SSR, 73, 295-297 (in Russian).
従って、地磁気・地電流法発見の栄誉も、当然ロシア人チーホノフに帰せられるべきなのだが、両者の明暗は論文を
書くのに使用した言語と掲載された学術誌によってはっきり分かれてしまった。すなわち、チーホノフがロシア語で
国内誌に書いたのに対し、カニャは英語で国際誌に投稿したのである。Geophysicsは、現在でもreputationの高い米国
物理探査学会の学会誌である。
論文はできるだけ多くの人の目に止まる国際誌に出すべきである、という当たり前の事を、Palshin博士から首尾
良く入手できた極東ロシアの地磁気データを携えて帰る機内で、改めて噛み締めたのだった。
謝辞: この日露地球電磁気セミナーへの参加に際しては、日本学術振興会の二国間交流事業「アジア-太平 洋海陸遷移
地域における地磁気変動に関する共同研究(代表:歌田久司東京大学地震研究所教授)」の支援を受けた。
(藤 浩明 − 富山大学・理学部・地球科学
地磁気世界資料解析センター・非常勤講師)