News and Announcements [in Japanese]
地磁気センターニュース

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地磁気世界資料解析センター News No.94 2005年11月29日
1.新着地磁気データ
前回ニュース(2005年9月30日発行, No.93)以降入手、または、当センターで入力したデータの
うち、主なものは以下のとおりです。オンライン利用データの詳細は
(http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/catmap/index-j.html) を、観測所名の省略記号等については、観測所カ
タログ(http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/catmap/obs-j.html) をご参照ください。
また、先週の新着オンライン利用可データは、
(http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/wdc/onnew/onnew-j.html)で御覧になれ、2ヶ月前までさかのぼること
もできます。
Newly Arrived Data
(1)Annual Reports and etc.
SOD, OUJ, NUR, HAN (Sep. - Oct., 2005), NGK (Aug.- Oct., 2005)
(2)Kp index: ((http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/kp/index-j.html)
Sep. - Oct., 2005
2.Dst指数、AE指数とASY/SYM指数
2005年5月~2005年8月のDST 指数 Quick Look Dst (Provisional) を算出し、関係機関に配布しま
した。また、2005年10 月分までの1分値ASY/SYM指数を算出しホームページに載せました
(http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/aeasy/index-j.html)。
3.Provisional Geomagnetic Data Plots について
世界各地で測定された地磁気1分値データをプロットしたProvisional Geomagnetic Data Plotの2005年
9月までのポストスクリプトファイルが利用できるようになりました。図の形式は2日分が1画面です。
(ftp://swdcftp.kugi.kyoto-u.ac.jp/data/pplot)。
4.「北西太平洋における海底長期地磁気観測データの公開」
富山大学理学部地球科学科では東京大学地震研究所海半球観測研究センター及び海洋研究開発機構地球
内部変動研究センター地球内部構造研究プログラムと協力して,2001年8月以来北西太平洋の海底観測
点(以降NWP点と略す)において地磁気の長期観測を行っている。これまでに,2005年1月迄の約3.5
年間に亘るほぼ連続記録が得られている。この内,2003年7月迄の約2年分についてデータの初期処理
・補正が完了した為,2006年1月1日を以って本センターにおいてデータ公開を開始する事とした。
本稿では,この海底データについて紹介する。
表1に,データの概要を掲げる。
表1.北西太平洋海底地磁気観測点
位置: 北緯41.102度,東経159.963度,水深5580m(WGS84)
IAGAコード: NWP
観測期間: 2001年8月1日~2003年7月13日UTC
測定間隔: 毎分
観測地磁気成分: XYZF
磁場分解能: 0.01nT
全磁力値絶対精度: 0.2nT(Toh and Hamano, 1997に依る。)
磁場三成分絶対精度: 1nT(地磁気鉛直成分)及び5nT(地磁気水平二成分)
データの書式: IAGA2002
磁場センサー: フラックスゲート(三成分),オーバーハウザー(全磁力)
海底観測点の位置(図1)は,観測装置を敷設した後に船上から行った超音波測距を用いた音響位置決定
により,WGS84測地基準系に準拠したGPS船位と結合してある。位置決定精度は,±数十m程度である。
また, IAGAコードは,”North West Pacific”から”NWP”を略称として選択し,今後IAGA WG V-OBS
に申請予定である。
図1.水深5600m,年代約124Maの北西太平洋海盆に位置する海底長期地磁気観測点(NWP)。
最寄りの地磁気観測所の一つである水沢(MIZ)から約1500km東に離れている。
NWP点は,①停滞性の非双極子磁場極小異常の西端部に位置する,②年代が約124Maと非常に古い
海底上に位置する,の2点から地球科学的に重要な観測点であると考えられ,①はコア・ダイナミクス
及びマントル底部構造の研究に,②は海洋リソスフェアの研究に特に有用であろう。
本海底地磁気データの原記録は,2001年8月1日~2002年7月4日と2002年6月30日~2003年
7月13日の二期間に異なる2点で観測された二つのセグメントから成っているが,5日間の海底における
同時並行観測記録を用いて地点差の補正を行っている。使用した海底観測装置の時計精度は約10-7ppm
であったが,敷設前と装置回収後に観測船のGPS時計を参照して必ず時刻較正を行い,世界協定時
(UTC)の毎分値に変換している。
磁場分解能は10pTであるが,絶対精度としては全磁力値が0.2nT,磁場三成分が5nT(鉛直成分に
ついては1nT)である。これらの磁場測定値には,時刻補正の他に温度補正・傾斜補正が施してある。
NWP点に敷設した「海底電磁気観測ステーション(Toh et al., 1998; Toh et al., accepted)」は,地磁
気に加えて温度・傾斜水平二成分・地電位差水平二成分が測定できるが,各々の測定精度は0.01℃・3秒
・60nV/mである。温度補正は,東京大学地震研究所八ヶ岳電磁気観測所で事前に求めた温度係数と海底
での温度実測値を用いて,磁場各成分について行った。使用した傾斜計の温度係数及び海底での温度変化
共に極めて小さかった(±0.03℃/年)為,傾斜測定値に対する温度補正は施していない。磁場三成分に
対する姿勢変化補正は,地磁気三成分の絶対精度を保ち,かつ,海底における地磁気永年変化(後述)を
検出する為に非常に重要である。傾斜計の測定精度が向上した為,鉛直成分については基線変化を含めて
1nTの絶対精度が達成できているが,海底での方位時間変化が現システムではモニターできていない為,
水平二成分の絶対精度は5nTに留まっている。方位計として,光ファイバーを用いたトンネル掘削用
小型ジャイロを搭載しているが,ジャイロを起動すると磁場ノイズが発生する事,及び,方位測定に大電力
を必要とする事などから,現在海底では3ヶ月に一度程度の間欠方位測定を行っている。また,方位測定
値の平均誤差が10秒程度あるのに加え,方位測定系と磁場測定系間の方位のズレの推定精度が約30秒で
ある為,海底での絶対方位誤差は40秒程度と考えられる。方位測定系・磁場測定系間の方位のズレは,
各方位測定終了後ジャイロに取り付けた三軸コイルで双極子磁場を発生させ,それを三成分フラックス
ゲート型磁力計で受信する事により推定している。
ここまで述べてきた観測装置・測定方法・補正法・精度の推定法については,文末に掲げたToh et al.
(1997),Toh et al. (1998), Toh et al. (accepted)などに詳しい。
図2.NWP海底観測点で観測された地磁気鉛直成分の永年変化(約2年分)。北西太平洋では地磁気
鉛直成分は現在増加傾向にあり,かつ,その殆どは赤道双極子の西方移動で説明できる。
次に,観測データの例として,地磁気鉛直成分に見られた永年変化について述べる。
図2は,NWP点で観測された約2年間に亘る地磁気鉛直成分の時間変化である。磁場凍結近似
(Roberts and Scott, 1965)が成り立っていると仮定すれば,この変化は外核表面の流れを示していると
考えられる。図から分かる通りNWP点で地磁気鉛直成分は現在増加傾向にあり,磁場観測衛星Orsted
のデータから求められた地磁気永年変化係数(Olsen, 2002)を用いてNWP点での鉛直方向の永年変化
を計算してみると,海底での実測値と良く一致する(Toh et al., 2004a)。さらに観測された地磁気鉛直
成分の内訳を調べてみると,赤道双極子(球面調和関数のg11及びh11項)の線形時間変化だけでほぼ説明
がつく事が分かった(藤・浜野,2005a)。従って,北西太平洋で観測された地磁気永年変化は,双極子
成分の西方移動を現していると解釈できる。ここで不思議なのは,軸双極子成分(g10項)も大きく変化し
ているにも関わらず,観測には現れない事である。もっと正確に言うと,軸双極子の永年変化は非双極子
成分のそれと丁度打ち消し合い,結果として赤道双極子成分の変化だけが観測にかかっている。何故両者が
打ち消し合うのかは今後明らかにするべき課題であるが,北西太平洋では現在の傾向として空間分布にして
も永年変化にしても非双極子成分の寄与が小さい事は間違い無さそうであると考えている。
NWP点では磁場の他に,差し渡し5m程度の直交水平ダイポールと銀・塩化銀電極を用いた地電位差
測定も同時に行っている。磁場と電場の水平二成分間の比を用いる地磁気・地電流法と,磁場の水平分力と
鉛直成分間の比からC応答関数(Schultz and Larsen, 1987)を求めるGeomagnetic Depth Sounding
法とを併用し,導体地球の長周期応答関数を周期7日程度まで求め一次元性を仮定して推定した電気伝導度
構造が図3左(藤,2005b)である。このモデルでは,深さ40km,125km,250kmに各々中心を持つ
三つの良導体が分解されている。図3右は,データに対するフィットを緩めながら推定した各良導体の解像
度であり,深さ125km,40km,250kmの順に解像度が悪くなってゆく事が読み取れる。従って,後
二者はともかく深さ125kmの良導体は確実にデータにより規定されており,これは太平洋プレートの
電気的な厚さとして図3左で電気伝導度が急増する深さ100kmが妥当である事を示唆している。
図3.NWP点下の一次元電気伝導度構造(左)とその解像度(右)。R=1は,構造の第一階差を罰則項
として一次元インバージョンを行った結果。R=2は第二階差。
以上,北西太平洋海底長期地磁気観測点(NWP)で取得したデータの概要及びその予備的解析結果を
述べた。データの公開にあたり本稿がこのデータを利用される読者諸氏の参考になれば望外の幸せである。
文中に挙げた文献以外では,本センターニュースのバック・ナンバー(藤,2004b;藤,2005c)なども
可能なら参照されたい。尚,最後に述べた地電位差データについても,海洋研究開発機構地球内部試料分析
研究プログラムを通じて今後公開の予定である。
参考文献
Olsen, N., A model of the geomagnetic field and its secular variation for epoch 2000 estimated from
Orsted data, Geophys. J. Int. (2002) 149, 454-462.
Roberts, P. & Scott, S., On the analysis of the secular variation I. A hydrodynamic constraint: theory,
J. Geomag. Geoelectr., 17, 137-151, 1965.
Schultz, A. and Larsen, J. C., On the electrical conductivity of the mid-mantle - I. Calculation of
equivalent scalar magnetotelluric response functions, Geophys. J. R. astr. Soc., 88, 733-761, 1987.
Toh, H. and Y. Hamano, Y., The first realtime measurement of seafloor geomagnetic total force -
Ocean Hemisphere Project Network, J. Japan Soc. Mar. Surv. Tech., 9, 1-23, 1997.
Toh, H., T. Goto, T. and Y. Hamano, Y., A new seafloor electromagnetic station with an Overhauser
magnetometer, a magnetotelluric variograph and an acoustic telemetry modem, Earth Planets
Space, 50, 895-903, 1998.
Toh, H., Y. Hamano, Y., M. Ichiki, M. and H. Utada, H., Geomagnetic observatory operates at the
seafloor in the Northwest Pacific Ocean, Eos, Trans. Amer. Geophys. Union, 85, 467/473, 2004a.
Toh, H., Y. Hamano, Y. and M. Ichiki, M., Long-term Comparison of seafloor geomagnetic
Observatory Data with Global Estimatesstation in the Northwest Pacific: A possible candidate
for a seafloor geomagnetic observatory, Earth Planets Space (accepted).
藤 浩明,北西太平洋における海底長期地磁気観測,京都大学地磁気世界資料解析センター News
No.87,2004b.
藤 浩明・浜野洋三,北西太平洋における海底地磁気三成分永年変化,2005年地球惑星関連学会合同
大会予稿集,E012-013,2005a.
藤 浩明,海底電磁気観測の現状と将来,物理探査,56,227-239,2005b.
藤 浩明,海底地磁気永年変化と外核表面の流れ,京都大学地磁気世界資料解析センター News No.90,
2005c.
(藤 浩明 - 富山大学・理学部・地球科学
地磁気世界資料解析センター・非常勤講師)
5.PV2005会議に出席して
- 科学技術データの長期保存と価値付加に関する会議と国際ディジタル地球年 -
11月21日から23日まで、英国(スコットランド)エディンバラ市にあるロイヤルソサエティ(Royal
Society of Edinburgh)で開催された "Ensuring Long-Term Preservation and adding Value to Scientific and
Technical Data" (PV2005)に出席した。会議のタイトルを訳せば「科学技術データの確実な長期保存と価値
付加」ということになるので、当地磁気センターで10年以上にわたって取り組んできた過去の地磁気観
測データのデータベース化とその保存、および2007年から始まる国際ディジタル地球年(eGY; electronic
GeophysicalYear, http://www.egy.org/ )を推進する上で役立つ情報を得るとともに、普段はあまり接する機会
のない情報科学の専門家達と交流するチャンスであると考えた。参加者は70-80名のこじんまりした会議
で、広くはないが格調高いロイヤルソサエティの大会議室にちょうど収まった。日本からは、私の他は、
CODATAとJAXA関係者各1名のみで、インドや中国からは珍しく一人も参加しない欧米諸国中心の会議
だった。
講演内容は、これまで蓄積された大量のデータをどのようにディジタル化し保存するかというデータ
センター関係者による話と、人工衛星等によって生み出されつつある地球や宇宙空間の多種かつ膨大な
観測データをどのように統合しサービスするシステムを構築するかという欧米宇宙機関や地球観測機関
関係者による講演にほぼ大別された。もちろん、各研究所などに蓄積されつつある研究活動などの種々多様
なデータベース(Institutional repositories; IRs)をどのようにとりまとめ広く利用できるようにするかという
英国の図書館関係者の取り組みなど、一般的講演もあった。しかし、どのようにして長期保存するかなど
のテクニカルな講演はむしろ少なく、欧米の宇宙機関や大きなデータセンターにおける大規模なデータ
システムの構築計画が、それぞれのマネージメント責任者によって披露されたという印象が強く残った。
当センターからは、ここ数年取り組んできたアナログ地磁気観測記録(マグネトグラム)のディジタル化に
ついてポスター発表(*)を行った。
今回の会議発表では、ISO 14721; Open Archival Information System (OAIS) 等、情報に関する国際標準
モデルがあちらこちらに現れ、データ交換と利用の更なる国際化・学際化に伴い、データのFORMATや
保存を考える場合には、学界内部の都合だけではなく、データシステムについての国際標準化の動き、
ISO(International Organization for Standardization)の規格なども念頭に置く必要を感じた。
この秋、我が国においても国際ディジタル地球年を推進するため、国内委員会を設立したが、今回の
会議は欧米諸国でダイナミックに進行しつつある大規模な地球観測データシステム計画の現状を知り、
今後のデータ関連の活動において留意すべき点やヒントを得ることができた点で有意義であった。
(*) Iyemori, T., M. Nose, H. McCreadie, Y. Odagi, M. Takeda, T. Kamei and M. Yagi, Digitization of
Old Analogue Geomagnetic Data, proceedings of Ensuring Long-Term Preservationn and adding Value to
Scientific and Technical Data, Edinburgh, November 2005.
(地磁気世界資料解析センター・家森俊彦)
本ホームページについては右記まで: iyemori@kugi.kyoto-u.ac.jp