News and Announcements [in Japanese]
地磁気センターニュース

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地磁気世界資料解析センター News No.85 2004年5月31日
 
 
1.新着地磁気データ
 
      前回ニュース(2004年3月31日発行, No.84)以降入手、または、当センターで入力したデータの
  うち、主なものは以下のとおりです。オンライン利用データの詳細は
  (http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/catmap/index-j.html) を、観測所名の省略記号等については、観測所カ
  タログ(http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/catmap/obs-j.html) をご参照ください。
  また、先週の新着オンライン利用可データは、
  (http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/wdc/onnew/onnew-j.html)で御覧になれ、2ヶ月前までさかのぼること
 もできます。
 
 
      Newly Arrived Data
 
        (1)Annual Reports and etc.
              SOD, OUJ, HAN, NUR (Feb. - Apr., 2004),  NGK (Feb - Mar., 2004), SFS (2002),
 
 
	   	MMK LOZ (Jul. - Sep., 2003)
        (2)Kp index: (http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/kp/index-j.html)
              Mar. - Apr., 2004
 
 
 2.Dst指数、AE指数とASY/SYM指数
 
    2003年11月〜2004年2月のDst指数 (Provisional) を算出し、関係機関に配布しました。ご希望の方
は、郵便またはファクシミリにて当センターまでお申し込み下さい。なお、
    Quick Look Dst指数(http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/dstdir/dst1/quick.html) および Quick Look AE
指数 (http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/aedir/ae/quick.html) は1日以内の遅れで当センターのホームページ
から利用できます。また、2004年3〜4月分の1分値ASY/SYM指数を算出しホームページに載せま
した (http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/aeasy/index-j.html)。
 
 
3.Provisional Geomagnetic Data Plots について
 
  世界各地で測定された地磁気1分値データをプロットしたProvisional Geomagnetic Data Plotの2004年
3月までのポストスクリプトファイルが利用できるようになりました。図の形式は2日分が1画面です。
(ftp://swdcftp.kugi.kyoto-u.ac.jp/data/pplot)
 
 
4.タイの古寺遺跡から過去1000年間の偏角永年変化がわかる?!
 
  京都大学21世紀COEプログラムの一環として、タイ・チュラロンコ−ン大学理学部(橋爪道郎
教授・他)と共同で、2004年1月末および3月末に、タイ中部にあるPhimai(ピマーイ)観測所(Royal
 Rain Making 所属)に磁力計およびGPS受信機を設置して試験観測を開始するとともに、9−17世紀に
建設された数カ所の古寺遺跡の方位測定を行いました(*1、*5)。これは、中国(西安)における偏角測
定記録(*2)によると、11世紀前後には磁北が西に約15度ずれていましたが、たまたま訪れたPhimai
観測所近くの同時期に建設された大規模な古寺が、同程度西にずれた方向に建てられていることから、
我が国のいくつかの歴史的建造物(*3,*4)同様、タイでは大規模な古寺の建設にコンパスを用いて方向を
決めていたのかもしれないと考えたからです。
 
 もしそうであるならば、タイ国内に多数存在する同様な遺跡を調査すれば、過去1000年間以上に亘る
東南アジア地域の地磁気偏角永年変化を明らかにすることができるかもしれません。1月末は観測所に装置
を設置することが目的だったので、Phimaiの遺跡の他には、その近くのPrasat Muang TamとWat Phra Si
 Ratana Mahathatをバンコクへの帰路に立ち寄っただけでしたが、3月末の観測出張では当初から他の主要
な数カ所の遺跡調査を予定に組み込み、タイ国内を5日間で約1500km以上走り回るという強行軍でした
(図1)。
 
 
 
          
 
              <図1>                             <シーサッチャナーラ付近にある窯跡>
 
 
 
日本からは、私と能勢正仁助手(1月末)、及び私と齊藤昭則助手(3月末)、タイからは橋爪教授と
チュラロンコ−ン大の学生さんが同行しました。スコータイ(Sukhothai)やアユタヤ(Ayutthaya)は
日本からも多くの観光客が訪れるところですが、スリ・テップ(Sri Thep)などは非常に大規模な遺跡で
あるにもかかわらず、まだそれほどは観光地化してなくて、広大な敷地の中に多数の遺跡がひっそりと佇み、
1000年前の栄華と動乱の世を偲ばせていました。しかし時間的制約から、ゆっくり観光を楽しむ余裕はなく、
私たちは貸し自転車に乗って、コンパスグラスと携帯型GPSを片手に、遺跡公園内に点在する寺院跡の方向
と位置をひたすら測り続けました。その結果をまとめたのが図2で、各遺跡で測定した値(平均値)を短い
横棒で示してあります。もちろん、全ての遺跡の方向が意味があるというわけではなく、中には、例えば
 Kamphaeng Phet 遺跡公園のように、多数の遺跡がバラバラな方向を向いて建っている場合は除いてあり
ます。
 
 
 
 
                                     <図2>
                              
 
 
 
 この図には、西安における偏角の測定値(破線)と、考古磁気学に基づく我が国における偏角の推定値
(実線、*3)もプロットしてあります。地磁気分布の西方移動とその緯度による違いなどを考慮に入れると、
中国で測定された偏角の永年変化(破線)とかなりの類似性が見られます。現時点では、コンパスを用いた
という証拠はどこにも見つかっていないので断定することはできませんが、古くからコンパスが使われて
いた中国とは盛んに交流があったこと、また、建物の方位が真北(真東)からずれた状態でよく揃って
いること、変動の様子が西安と類似していることを考え合わせると、タイでは古くから方位決定にコンパス
が使われてきた可能性は高いと考えています。
 
 このような推測の真偽は、今後、考古学だけではなく、スコータイをはじめ各地に残る焼き物の窯跡に
記録された当時の地磁気(残留磁気)を測定する考古磁気学的手法を通して明らかになると期待されます。
さらに、タイ近隣諸国やインドネシアにも多数の遺跡が残されていますので、これらも調べれば、より地球
物理学的に価値の高い情報が得られるものと期待されます。
 
 
     
 
  <ロッブリーにある遺跡>                    <アユタヤの遺跡>
                                 
 
 
(*1) 家森俊彦、橋爪道郎、小田木洋子、能勢正仁、D.-S. Han、Heather McCreadie、齊藤昭則、
Nithiwatthn Choosakul、Praon Silapanth、AkkaneewutChabangborn、タイにおける磁場観測と考古磁気学
的調査 −古寺遺跡の方位と偏角の永年変化−、地球惑星科学関連学会2004年合同大会、2004年5月12日、
千葉幕張メッセ.(*2) Smith, P.J. and J. Needham, Magnetic declination in mediaeval China,
Nature, 214、1213、1967. (*3) 広岡公夫、古寺伽藍中軸線方位と考古地磁気−日本における磁石使用の
起源について−、考古学雑誌、Vol.62, 49-63, 1976. (*4) 堀貞雄、『北極星』と『磁北』、地磁気世界
資料解析センターニュース、No.10、1991.
(*5) http://kagi.coe21.kyoto-u.ac.jp/jp/tidbit/tidbit20.html, 古代クメール遺跡が指し示す
1000年前の地磁気偏角?                                             
 
 
                                                                                    (家森俊彦)
 
 
5.COE研究員着任
 
  この3月に京都大学で博士の学位を取得し、4月1日より京都大学の21世紀COEプロジェクト「活地
球圏の変動解明 --アジア・オセアニアから世界への発信--」の推進のための研究員として、 地磁気
センターで働くことになりました。
 大学院では、大規模沿磁力線電流の変動とその地磁気変動への影響について主に研究してきました。
現在は地磁気データ等をもとに大規模沿磁力線電流の変動(数分スケールから数十年スケールあたり
まで)やその climatology を調べつつ、新たな field も探そうと考えているところです。
とは言え、現在の主な仕事は、本COEプロジェクトのホームページの維持及びデータベースの構築です。
本プロジェクトは地球科学の様々な領域をカバーしているため、ホームページに掲載するために地球
科学の中でも自分にとってあまり馴染みのない分野についての文章を書かせて頂く(あるいは書かさ
れる)機会もあり、そこが楽しいところでもあり大変なところでもあります。否、大変というよりは
恐ろしい話かもしれません。
以前、「オーロラはなぜ高緯度に現れるのか」という問いに対して、「地球は磁石だから荷電粒子は
磁石に吸い寄せられて北極と南極に集められるのだ」という説明がテレビか何かでなされていてびっ
くりさせられたことがあったのですが(まあ、ある意味で感心する発想ではありましたが)、白亜紀
とジュラ紀とでどちらが先だったかを忘れてしまっているような人間が、地質学関連の文章を書いた
りしているのですから。似たようなことが起こらないとも限りません。そういうわけで、そうならな
いようにもっと広く勉強しなくてはならないと思う今日このごろです。
なお、このように問題も抱えつつも運営されているホームページは
 
  http://kagi.coe21.kyoto-u.ac.jp/
にあります。一度ご覧頂ければ幸いです。
 
                                        (中野 慎也)
 
 
 
6.京都大学21世紀COEプロジェクト関連の活動(下記URLをご参照願います)
 
(1)  阿蘇火山地磁気観測データが、ディジタル値(毎秒値・毎分値)の形でもリアルタイムでホーム
    ページから取得できるようになりました。
 
    http://kagi21b.kugi.kyoto-u.ac.jp/aso/
(2) 今週のこの一枚シリーズに『ハレー彗星の尾が地球圏に与えた影響 --地球観測データ保存の
    重要性--』を投稿しました。
    http://kagi.coe21.kyoto-u.ac.jp/jp/tidbit/tidbit31.html
 
 
5.地磁気センタースタッフ (2004年5月現在)
 
       専任教官・補佐員	  		              併任教官
  センター長/教授	家森 俊彦       小山 勝二(京都大学大学院理学研究科 
  助手  		亀井 豊永    	            物理学・宇宙物理学専攻)
	   		竹田 雅彦       黒河 宏企( 〃	付属天文台)
	   		能勢 正仁       田中 良和( 〃	付属地球熱学研究施設)
  事務補佐員        武内 典子       中西 一郎( 〃	地球惑星科学専攻)
  技術補佐員        小田木 洋子      町田   忍( 〃	      〃        )
  COE研究員        Heather McCreadie 		
               中野 慎也