News and Announcements [in Japanese]

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  ★地磁気センターニュース No.74/2002年7月30日★


1.新着地磁気データ
      前回ニュース(2002年5月30日発行, No.73)以降入手、または、当センターで入力したデータの
  うち、主なものは以下のとおりです。オンライン利用データの詳細はhttp://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/catmap/index-j.html を、
  観測所名の省略記号等については、観測所カタログ(http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/catmap/obs-j.html)
  をご参照ください。

      Newly Arrived Data
        (1)Annual Reports and etc.
                SFS (2000) , NGK (Mar. May 2002), API, EYR, SBA (2001)
                SOD, OUJ, HAN, NUR (May, 2002), LOZ, TUM, MMK (Jul - Dec., 2001)

        (2)Digital Data
      Geomagnetic Hourly Values: (http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/hyplt/index-j.html)
                API, EYR, SBA (2001),  KAK, KNY, MMB (May - Jun.2002),  HTY (May 2002)
	        CSY, MCQ, IRT, FUR, HRN, TAM, QSB, KOU CLF, FRN, BSL, DLR,
                NEW, MID, MAW, TRW, MAB, HER, HBK, CTA, LOV, ABK, LMM, (2001)

            Geomagnetic 1 Minute Values: (http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/mdplt/index-j.html)
                79ヶ所(2000), VAL (May, 2002), TRW (1993 - 95, 1997 - 1999)
	        KAK, KNY, MMB (May - Jun. 2002), HTY (May, 2002), AIA (1999)
                CSY, THL, NAQ, MAW, MAB, LRM, LMM, HRN, GOH, DOU, BFE (2001)

            Geomagnetic 1 Second Values: (http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/shplt/index-j.html)
                KAK, KNY, MMB (May - Jun., 2002), HTY (May, 2002)

        (3)Kp index: (http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/kp/index-j.html)
                May - Jun., 2002

       (4)Magnetogram digital image files
 	ABG(1995), DIK(1979,1981-82,1984-89), HIS(1979-81,1984-87,1990),
 	IRT(1979-89,1997), NGP(1995), ODE(1979-92), PON(1995), SVD(1990-97),
 	TFS(1979-89), TIK(1979-82,1984-89), TOL(1979-90), TRD(1994-95), UJJ(1995)


 2.オンラインマグネトグラム画像の追加について
   2000年より開始しましたマイクロフィルム等に記録されたアナログ地磁気観測データ(マグネト
 グラム)の上記 (4) の追加分データCDを関係諸機関へ配布しました。画像はTIF形式で、
 http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/film/index.html から利用できます。


 3.1時間値Dst指数の算出と配布・1分値ASY/SYM指数の算出
      2002年4 月〜2002年5 月のDst指数 (Provisional) を算出し、関係機関に配布しました。ご希望の
  方は、郵便またはファクシミリにて、当センターまでお申し込み下さい。なお、Quick Look Dst指数
  (http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/dstdir/dst1/quick.html) および Quick Look AE指数
  (http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/aedir/ae/quick.html) は2〜3日の遅れで当センターのホームページから利用できます。
  また、2002年5月〜6月分の1分値ASY/SYM指数を算出しホームページに載せました。


 4.当センターWebホームページのASY/SYM指数の時間単位での期間指定について
     かねてよりご利用いただいておりますASY/SYM指数サービス (http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/aeasy/index-j.html)
  における期間指定が開始時間、継続時間(最大31日間)ともに1時間単位でできるように
  なりました。 また、図形出力については、これまでは1日単位で別フレームになっていたのが、全期間
  1フレームで描かれるようになるとともに最大期間もデータ出力と同じ31日間まで可能となりました。
  これまでのような日別のプロットが必要なときには、ご面倒をおかけしますが日別にsubmitしていただ
  くようお願いします。

  


                                          プロット例


 5.Data rescue プロジェクト
     中国の地磁気観測は、上海市南西郊外Xu-jia-hui (徐家匯)天文台 (Observatore de Zi-ka-wei;1870年
 に「法(仏)国天主教耶蘇会」が設立) で1874年に始められたが、データ保存の実体は明らかでなく、古
 い記録の一部は複写されないまま崩壊の危機に瀕していると伝えられていた。世界資料センター
 (WDC) を統括するICSU (国際学術連合会議) WDCパネルは、この中国地磁気古記録の保存を "Data
 Rescue" プロジェクトの一つとして取り上げ、1992年3月、私が北京の中国科学院地球物理研究所
 (以後CAS-GIと略記する) 地球物理世界資料センター (WDC-D for Geophysics) に赴いて進行状況を
 調査することになった。1988年に誕生して間もない中国のWDC-D (8センターから成る) の現状を知
 り、データ活動を促進するのがもう一つの使命であった。そのため、上記センターの他に、いずれも
 北京市にあるWDC-D Coordination Office (中国科学院) 、WDC-D for Seismology (国家地震局地球物理
 研究所:SSB-GIと略記)、WDC-D for Space Physics (中国科学院空間科学研究センター) も訪ねた。ま
 た、明の十三陵 (Ming Tomb) の近くにあるCAS-GIの北京地磁気観測所を見ることも出来た。
 WDC-D for Geophysicsセンター長のMei Qing Gao (高美慶) 女史が北京市西北部の北京大学西側に
 宿 (暢春園飯店) を取り、行動の世話をしてくれた。近くには精華大学もあり、北京市北部は大学や
 研究機関が集まる大文教地区になっているようであった。

   中国の地磁気観測はSSBとCAS-GIに分かれて行われていて、北京には両機関の観測所がある。
 CAS-GIは国内に6つの観測所を持ち、北京十三陵測所では6秒サンプリングのデジタル観測も行われ
 ていた。WDC-D for Geophysics は、CAS-GI内に数室と高氏以下男女2名ずつ計5人の専任スタッフ
 を有していたが、パソコン1台以外の設備はなく、国内6観測所のデータ処理ソフトが完成したと
 ころであった。CAS-GIの計算機VAX11/780 に接続されたCALCOMPの大きなデジタイザーとプロッ
 ターがあったが、データセンターからは使いにくいので独自の装置が欲しいと高氏は言っていた。

   上海の古マグネトグラムは1877年以降のものが残されていること、観測点が、1877- 1907 (徐家匯),
 1908-1931 ( Liu-Jian-Bang:昆山県陸家浜), 1932- (She-Shan/Zo-Se:松江県?山)の3期に分かれて移動
 し、移行期間には2年の並行観測が行われたこと、1成分3日分が1フレームに記録されていること
 等が分かった。今の上海では、他にSSBのChong- Ming (崇明) 地震台 (揚子江河口の崇明島にある)
 で1976年から地磁気観測が行われている。

   動かせばバラバラに壊れそうな古い印画紙のオリジナルマグネトグラムを見たときはショックを受
 けたが、最も悪い状態の約3000フレームが修復され、35mmフィルムへの複写も始まっていると聞い
 て少し安堵した。1時間毎の読取り値表が載っている年報の1932年以降分はCAS-GIにあるが、それ
 以前のものはSSB-GIにあって全部揃っているか不明であった。両機関の間にはセクショナリズムの
 壁があり、相互にデータをチェックするのも容易でなさそうであった。SSB-GIのデータセンターを
 訪れた際にData Rescue プロジェクトへの協力を要請したが、対応はそっけなかった。WDCが出来た
 ものの専任職員の配置はなく、地磁気のデータサービスは未だ始められないとのことであった。以前
 から知っているYu-fen Gao (高玉芬)女史に会いたいと言ったが忙しいとかで駄目であった。
 Coordination Ofiiceでは、WDC運営の費用について質問を受け、ホスト国の負担で世界に対してサー
 ビスをするという基本原則が分かっていないという印象を受けた。今でも一般に中国のWDCでは、
 National Data Centerとの区別が明確に意識されていないように思われる。

  これらの調査結果を纏め、Data rescueの継続は必要だが、WDC-D for Geophysics・WDC-D for
 Seismologyの協力と、WDCの使命のより深い認識が中国側に必要であるとのレポートをパネル議長の
 Dr. S. Ruttenbergに提出した。
 
   1992年当時、北京市は節電に努めていて、高氏が夕食に呼んでくれた帰り、夜のアパートの外階段
 は真っ暗で手探りで降りた。バス (北京市公共的汽車) は夜も室内灯をつけず、車掌が切符を切る
 ときだけ手元灯をつけていた。Max- Planck Institut for Aeronomy (MPAE) 滞在中に知り合った北京大学
 のDr. C. T. Tu (MPAEのDr. Marschの共同研究者で大変なhard worker) が宿を訪れ、自分の大学
  教師としての給料は幼稚園の先生の妻より低い、道端で品物を売っている人達の方がずっと高収入だ、
  週一度は政治思想の集会に出席しなければならない、今も半年毎に単身でMPAEへ行って研究して
  いる、と話していた。データセンターの若いスタッフLu-wen-song (陸文松) 氏によれば、給料は20
  ドル、教授でも40ドル位で一般労働者より低い、企業へ行けば10倍位多くなるが公務員には社会保
  障とアパート入居に有利(結婚すれば待ち行列に入れる)等の利点がある、職は自分で探して無けれ
ば政府が斡旋してくれるから失業はない、給料は勤務年限で決まってサボっても首にならず悪平等だ、
同級生の多くがアメリカへ行くので政府が規制に乗り出し、自分は5年間は仕事を続けると誓約して
就職したとのことであった。研究所も自立を求められ、ホテルやレストランを経営していると聞いた。
HFドップラー観測室を見せてくれ、北京大学構内のアパートでお茶をよばれて漢詩について話をし
たXiao Zuo (肖佐) 教授は、文革の10年間は無駄で辛かったが最後の2年間にイギリスで研究できて
助かったと言っていた。文革時代には高氏の父上や親戚も迫害を受けたそうで、文革が残した傷跡は
深いと思った。旧知のTschu Kang Kun (朱崗崑)老教授 (S. Chapman の弟子) も、自宅アパートで開い
てくれたパーティで文革4人組の悪を語っていた。高美慶氏のご主人は米国の航空産業に長期出向中
で一人息子は精華大学工科を目指して受験勉強中、肖教授のご子息は会社で働いているとのことであ
った。

 これらの話は、文革の困難を乗り越え、公務員給与を低く抑えて徐々に統制を緩めながら、硬直し
た計画経済から開放経済へ移ろうとしていた当時の中国社会と、その大きな流れの中で懸命に生きる
人々の事情を物語っていて興味深かった。

 朱教授のパーテイでは、CAS-GI「日地物理学」グループのXu Wen Yao (徐文耀), Zhou Xiao Yan (周
暁燕),Yan Shao Feng (楊少峯) 氏等と知り合った。

 昨年,上海,南京,武漢を訪れ、超近代的な上海浦東新区に驚き、3都市共に夜が明るいのに隔世
の感を抱いて、躍進する中国経済を実感した。    
                                                                      荒木 徹(前センター長)
                                                                                            

6.淡路島の電磁場事情
    私たちの生活の中は、家電製品・エレベーター・電車など電気に関係する品物であふれています。
  これらが生活を便利にする一方で、周辺の電磁場環境は大きく影響を受け、自然の電磁場変動を使っ
  て地下の構造や状態を調べる仕事には頭痛の種になっています。

  一方で、日本のように地震・火山活動の活発なところでは予知に対する期待が高く、電磁気信号の
可能性が注目されています。地殻活動に伴って地下の応力や温度、水系などが変化し電磁気信号を発
生するという考えは古くからありましたが、未だ現象を完全に理解するには至っていません。

    気象庁地磁気観測所では、地殻活動に伴う電磁気変動の性質解明と、ノイズの多い都市部での観測
  の可能性の2つのチャレンジを掲げて、兵庫県南部地震の余震活動が続く淡路島で、1996年4月
  から2001年3月までの5年間、地電位差と地磁気の連続観測を行いました。島の北中部に21点の
  電極、6点の全磁力観測点、1点の地磁気3成分観測点を設けて、毎秒サンプリングで地磁気・地電
位をモニターするというもので、最初の報告書が2002年4月にまとまりました。

  淡路島のデータ解析で最初に直面した問題は、やはり都市ノイズでした(図1)。電位差の1000
秒以下の周期帯には早朝4時頃から深夜1時半頃まで数百mV/km程度の変動が見られ、人間の生活
圏から離れたところで測ったときに見られるような電離圏・磁気圏起源の自然の変化をほぼ覆い隠し
ている状態でした。深夜1時半から4時の間でも、昼間に比べれば10分の1以下とはいえ周期1000
秒以下のノイズは厳然と存在し、さらに、周期が1〜2時間程度の緩やかな変動が明瞭に見られ
ました。磁場でもノイズ事情は同様でしたが、自然の信号の相対的な強度が電場に比べれば大きい
ことがわかりました。




 
 図1 1998年11月11日の大谷を基準とした興隆寺(上)と北山(下)の地電位。
 横軸の時刻はUT。

これらの比較的短周期のノイズは、主に京阪神を走る電車の漏洩電流によるものだと思われます。
というのは、ノイズが減少する深夜の時間帯と電車が止まる時間帯が一致するのと、電車が終日運行
する大晦日だけはノイズも1日中活発だったからです。淡路島の中には路線がないにも関わらずこの
ように強力な電車起源の電位差変動が観測されるのは皮肉な話ですが、電車ノイズの報告例は世界中
にあり、最近では150〜300km離れた場所でサンフランシスコの電車起源の変動を観測した例も示
されました。一般に都市部の観測で電車ノイズが自然の電磁場変動を凌駕する1〜100秒の周期帯は
dead bandと呼ばれ、ノイズ除去のため多くの研究者が頭を悩ませているところです。それにしても、
線路を通じてこれだけの電流が漏れていってしまうとは、もったいない・・・

  淡路島の電磁場の短周期ノイズについてその性質を調べたところ、特徴的な変動であることがわか
りました。電磁場間の変動に位相差はなく典型的なnear fieldなのですが、昼間のパワースペクトル
に900秒と600秒を母線とする高調波(450秒, 300秒, 225秒, 200秒, 180秒,…)の明瞭な
ピークが存在します(図2)。これらのピークの正確な周波数や強度は、日や時間によって微妙に揺
らぎます。また、電場変動は島の走行あるいは海岸に直交する向きに偏向していて、ノイズ振幅は島
の北部に行くにつれ大きくなります。これらの特徴は、ノイズ源が島の北方のごく近いところにある
ことを支持するもので、京阪神の電車網が原因という推論と矛盾しません。パワースペクトルのピー
クについては、快速電車や特急電車の運行間隔と何らかの関係があるのではと考えています。




図2 野島―大谷間の地電位差(左)と大谷の地磁気3成分(右)のパワースペクトル

  以上のような調査結果を踏まえ、地殻活動に伴う電場変動を検討するため、ノイズ除去手法の開発
に取り組みました。ここでは、主成分解析に基づく手法とディジタルフィルターを用いた手法の2つ
の方法を採用しました。主成分解析法では、ノイズは2つのモードに集約されることがわかり、それ
らの時空間情報を用いてフィルター化が図られました。ディジタルフィルター法では、柿岡の磁場変
化Bkakが広域的な自然磁場を表現しているとして、まず、20〜10000秒の周期帯について淡路島の
磁場から、Bkakと相関する成分とBnoiseに相関する成分をそれぞれ除去して、それらで説明できない
変動を取り出しました。
  これらのノイズ除去によってノイズの8〜9割方が取り除かれ、SN比の向上が見られたのは確か
なのですが、地殻変動に伴う電場変化を検証するのに十分であるかどうかは、実際の地震活動の記録
との注意深い比較が必要です。というのは、地殻変動に伴う電場変化は、仮に存在したとしても1〜
10mV/km程度と予想され、取り残されたノイズと同程度以下と考えられるからです。この点につい
ては、たまたま観測期間中に淡路島近辺では大きな余震が起こらなかったため、はっきりとした結論
は出せませんでした。ノイズの強い短周期帯を避け長周期帯の変化に注目した場合でも同様で、降雨
や海流の影響、短周期信号に埋もれていた長周期ノイズの存在など、さらに考慮すべき要因がいくつ
かあることがわかりました。

 兵庫県南部地震以後、淡路島の野島断層周辺では多くの電磁場探査が行われましたが、いずれも
ノイズとの戦いがありました。今のところはノイズの扱いは私たちにとって大きなチャレンジですが、
そのような苦労から新しい発想の観測や解析法が生まれてくるものと信じて、今後も頭を悩ませ続け
る予定です。

                                    藤井郁子(地磁気センター非常勤講師、気象庁地磁気観測所)