News and Announcements [in Japanese]
地磁気センターニュース


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 地磁気世界資料解析センター News No.123    2010年9月30日
 
 
 
1.新着地磁気データ
 
    前回ニュース(2010年7月30日発行, No.122)以降入手、または、当センターで入力したデータのうち、
オンラインデータ以外の主なものは以下のとおりです。
 オンライン利用データの詳細は (http://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/catmap/index-j.html) を、観測所名の省略記号等
については、観測所カタログ (http://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/catmap/obs-j.html) をご参照ください。
 また、先週の新着オンライン利用可データは、(http://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/wdc/onnew/onnew-j.html)で御覧
になれ、ほぼ2ヶ月前までさかのぼることもできます。
 
      Newly Arrived Data
 
          (1)Annual Reports and etc.(off-line)
                NGK (Jul. - Aug., 2010)、AQU (2008)
 
          (2)Kp index: (http://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/kp/index-j.html)
                Jul. - Aug., 2010
 
 
2.AE指数とASY/SYM指数
 
  2010年8月分までの1分値ASY/SYM指数を算出し、ホームページに載せました
(http://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/aeasy/index-j.html)。
 
 
3.インフラサウンドおよび微気圧変動データベースの公開について
 
  当センターでは、研究基盤としての地磁気データベースの構築と共に、分野横断型研究推進に役立つメタ
情報データベース構築のための大学間連携事業 (IUGONET) や、科学研究費を用いた研究 (VDCforEPS) を他機
関研究者と共同で進めていますが、その一環として、この度、おそらく世界で初めて、長期間(1984-2004)に亘
るインフラサウンドデータと、2006年以降の信楽における微気圧変動観測データを公開することにいたしました。
インフラサウンドデータは、愛知教育大学の田平誠名誉教授のご厚意で提供していただいた、世界的にも貴重
なデータセットです。信楽の微気圧観測データは、京都大学生存圏研究所の信楽MUレーダー共同利用として、
2006年8月以降継続して取得しています。この他に、国内外の数カ所で行っている微気圧観測データも、準備が
整い次第、順次公開する予定で、地球物理学だけではなく、生物学等を含め分野を横断する広範な領域の研究
に活用されることを期待しています。
 
 なお、データベース化とその公開にあたっては、日本学術振興会・科学研究費補助金(20244081)「地球惑星
科学仮想データセンターの構築と機能の実証的研究」および、文部科学省・特別教育研究経費「超高層大気長
期変動の全球地上ネットワーク観測・研究」の一部が使用されました。また、データベース化作業においては、
多くの方々のご協力をいただきました。
 
 
 
(1) 刈谷インフラサウンドデータベース (1984-2004): (URL) http://vdc-eps.org/hosting/pressure/tahira/
 
<画像プロットの例>

 
 
 インフラサウンドとは、通常、周波数が20Hzよりも
低い音波を指す。大気中のインフラサウンドを測定
する目的で、3個の高感度コンデンサー型マイクロ
フォンが刈谷市にある愛知教育大学構内 (35.05N,
137.05E) に設置され、1984年から2004年まで田平誠
(現名誉教授)により観測が行われた。このマイクロ
フォンにより測定される変動の周波数レンジはおおよ
そ0.04-1Hzである。この周波数帯域での振幅の小さい
インフラサウンドの測定には主に風によって引きおこ
される大気中の乱流がノイズとして強く影響するので、
その影響を打ち消すための装置がTahira(1981)により
開発され、刈谷での測定に採用された。                                    
 原理は、乱流成分はある長さの線上ではお互いに相
関しないことを利用し、打ち消すようにすることで、
実際には長さの異なる数十メートルのパイプを束ね、
マイクロフォンまで音波(気圧変動)を導くように設置
された。(詳細は下記 URL を参照
http://www.senior.aichi-edu.ac.jp/mtahira/IFS/IFS_top.htm)
                                  
 データのサンプリング周波数は20Hz (1984-1991)な
いしは10Hz(1993-2004)で、数値フィルターにより平滑
化の後、2分毎に3成分間の相互相関関数が計算され、
その最大値の平均が0.6以上の場合はインフラサウンド
のシグナルが含まれているという判断基準を設けてイ
ベントが選択され、記録された。それ故、データは連
続記録ではなく、イベント毎に最小2分間のデータが
記録されている。 
 このデータベースは、3つの期間に分けられ、データの処理方法が多少異なる。   1.1984-1991: レコーダー用紙に記録された波形を目で見てシグナルが検出された。それ故、1993年以降 の相関関数計算による自動検出結果に比較するとイベント数がかなり少ない。 2.1993 - 2004:  2分毎に3成分間の相互相関関数が計算され、その最大値の平均が0.6以上の場合はイン フラサウンドのシグナルが含まれているという判断基準を設けてイベントが選択された。 3.1991 Mt. Pinatubo eruption events: 2日間に亘り、連続的にデータが記録された。サンプリング間隔   は約8Hzであった。  データは、提供されたオリジナルデータのタイムコードを読み取って時刻情報を各データレコードに書き くわえたファイルと、ガウス型フィルターにより平滑化するとともに、長周期成分を除去したデータ、およ びそれをプロットしたgif形式ファイルが置かれている。 データ使用上の注意、ディジタルデータのフォーマット等は、このデータベースのwebページ http://vdc-eps.org/hosting/pressure/tahira/ を参照願います。  (2) 信楽微気圧変動データベース: (URL) http://vdc-eps.org/hosting/pressure/shigaraki/ <画像プロットの例> このデータベースで取り扱うデータは、バイサラ社製 気圧観測センサー(PTB210)で測定した、感度約1Pa(パス カル)、時間分解能1秒の大気圧変動で、観測システム は、京都大学生存圏研究所の信楽MU観測所構内 (北緯  34°51′18.2″, 東経 136°06′24.3″、 標高 394m) に設置されている。データは、2006年8月25日以 降、最近までをカバーしている。データベースとして公 開するファイルは、毎秒平均値および、それに十数分以 下の周期を通すhigh-passフィルターをかけたデータを 収納したファイルおよび、プロット画像ファイルで、そ れぞれ1日が一つのファイルに対応する。 データ使用上の注意、ディジタルデータのフォーマ ット等は、このデータベースのwebページ http://vdc-eps.org/hosting/pressure/shigaraki/  を参照願います。
4.天籟を捉える −刈谷におけるinfrasoundの観測その1− (1) はじめに  天籟(てんらい)という言葉は自然科学者にとってあまりなじみのない言葉かもしれない。「漢字源」 で調べると「天地自然の音響、自然になる風の音など」とある。もちろん「地籟」や「人籟」という言葉 もあるが、ここでは様々な音源から放射された音波が天空の色々な方向から到来するものをすべてまとめ て「天籟」と呼ぶことにする。  さて、私たちは絶えず多くの天籟に包まれて暮らしているが、これらのうち、ヒトの耳は周波数20-20000Hz のものしか感じとることができない。そしてよく知られているように、空気粘性による音の減衰は周波数が 高くなるほどその効果が大きい。このことはヒトが「耳」を情報伝達の手段として用いる上で実に有り難い 性質と言ってよい。もし可聴域の音波が減衰しないでいくらでも長い距離を伝搬するとすれば、人は同時に 聞こえてくる大量の音を聞き分けるのに苦労することになるだろう。もっとも、進化論的には話が逆で、 ヒトの可聴域は上記のような事情によって決定されているというのが本当かも知れない。 (2) Infrasound  これに対して可聴域よりも低い周波数の音波(infrasound)においては、伝搬中の減衰が小さいことから、 適切なセンサーを用意すればはるか遠方で発生した音を一網打尽に捉えることが可能である。これを利用 して、自然界で起きている色々な現象をよりよく理解するための手がかりが得られる可能性がある。我々 は種々の「天籟」の中で特にこのようなinfrasoundに注目することにする。  infrasoundが多くの研究者の関心を惹きつけるようになったのは、Yamamoto(1954)が、ビキニ環礁で行 われたアメリカの核実験によって発生した微気圧波を、日本の潮岬で捉えてから後のことである。1954年 3月1日の核実験では、焼津のマグロ漁船第五福竜丸が被爆するという悲惨な出来事があった。 Yamamoto(1954)はこのときの微気圧波も捉えている。これらの記録をみると、数分周期の震動に引き続い て、1分程度の明瞭な気圧震動が20分くらい継続している。Yamamoto(1957)はこれらの比較的短周期の気 圧震動は音波モードを表し、成層圏の高温域の存在を仮定することによって、始めて長距離伝搬が説明で きることを明らかにした。大気圏内核実験はその後も長期間にわたり、アメリカ、ソ連、中国などによっ て繰り返し行われており、これに伴う微気圧波を捉えるために1〜2分周期の音波モードに対応した観測が 盛んに行われた。その結果、様々な自然のsourceからのシグナルが見つかってきた。例えば、磁気嵐に伴 うinfrasound(Chrzanowski, et al.,1961)や、地震によって放射されるもの(Bolt, 1964; Mikumo, 1968)、tornadoに関連したもの(Cook and Young, 1962)、外洋上の発達した低気圧域から到来すると見ら れる持続的な波(microbaroms)(Donn,1967)など、枚挙に暇がないほどである。 (3) 愛知教育大学のinfrasound観測−その1− 筆者も遅ればせながら、1976年に愛知県内の刈谷市に超低周波マイクロホンを設置して常時観測を開始 した。刈谷の位置をFig.1に示す。Fig.2にマイクロホンのレイアウトを示す。    <Fig.1:刈谷のinfrasonic station>        <Fig.2: 愛知教育大学のinfrasound                          3点観測網(1976-1981) >  当初はKariya、Toyoakeの2地点でデータを取り始めたが、1979年にはもう一点Togoを加えてまがりなり にも3点観測ができるようになった。どうにか観測にこぎ着けることができたのは京都大学の山元龍三郎 先生による強力なバックアップとご指導の賜物である。  ToyoakeとTogoのデータはFM送信機によって刈谷に伝送され、ペン書きレコーダーに常時書き出される。 その当時はまだデータレコーダーが整備されていなかったので数値データとしては何も残っていない。 この観測は1981年2月まで続けられたが、装置の度重なるトラブルのため観測を打ち切らざるを得なかった。 しかしこの間にいくつかの興味深い信号が捉えられた。その中からここでは1例を紹介する。 観測を開始してからまもない頃の1976年9月26日、KariyaとToyoakeのセンサーは、Fig.3のような信号 を記録した。   <Fig.3:1976年9月26日中国の核実験に伴って記録されたinfrasound>  <Fig.4:Lob Nor 実験場>           報道によると同日0600 GMTに、中国がLob Nor実験場 (Fig.4) にて大気圏内核実験を行った。爆発の 規模は20〜200 ktonと推定されている。Fig.3を見ると、9時40分頃まではほとんど気圧変動がなく静穏 な状況を示しているが、9時40分を過ぎると徐々に振幅が大きくなり、9時43分ころにはToyoakeの位相 に対してKariyaの位相が少し遅れて対応する様子が見え始める。タイムマーク(10秒)と記録計のペン 位置のcalibrationデータを参考にしてその時間差を求めると、12〜13秒である。    マイクロホンが2本しかないので到来方向を正確に特定することはできないが、実験場により近い Toyoakeの位相が先行しており、両地点の距離約4kmに対して時間差12〜13秒は音波の伝わる時間として 大きな不都合はない。  このことから、信号の到着を9時43分とみなしてLob Norからの「見かけの伝搬速度」を見積もってみる。 Google mapから実験場の緯度、経度を読み取って刈谷との距離を計算すると、4174kmが得られ312m/s となる。ただし、Lob Norの位置の特定に20〜30kmの曖昧さがあるため、伝搬速度は2m/s程度の曖昧さを 含む。いずれにしても、この「見かけ上の伝搬速度」は、桜島の山頂爆発によって発生すinfrasound が、地表と成層圏の間を往復反射して刈谷まで伝播する時の経験的な速度(田平, 2001)とほぼ一致する。  刈谷の観測は、その後1984年4月からデータレコーダーを整備して新たな観測に入った。この観測は、 時折の中断を挟みながらも2003年まで行われた。これらについては数値データとして保存されており、 家森教授の熱心なお勧めに従って、当センターのデータベースとして登録させていただくこととなった。 観測内容については稿を改めて述べる。 文献 Bolt, B.A. (1964), Seismic and air waves from the Great 1964 Alaskan Earthquake, Nature, 202,    No.4937, 1095-1096. Chrzanowski, P., G.Green, K.T.Lemmon, J.M.Young (1961), Traveling pressure waves associated with    geomagnetic activity, J.Geophys.Res., 66, 3727-3733. Cook, R.K., and J.M.Young (1962), Strange sounds in the atmosphere Part II, Sound, 1, 25-33. Donn, William L. (1967), Natural infrasound of five seconds period, Nature, 215, No.5109, 1469-1470. Mikumo, T. (1968), Atmospheric pressure waves and tectonic deformation associated with the Alaskan        earthquake of March 28, 1964, J.Geophys.Res.,73, 2009-2025. 田平 誠 (2001), 大気の温度構造とインフラソニック波の長距離伝播, 超音波TECHNO, 13, 23-27. Yamamoto, R. (1954), The microbarographic oscillations produced by the explosions of hydrogen-bombs,       Bull.Chem.Res.Inst., Kyoto Univ., Supplementary Issue (Met. Notes, Met. Res. Inst., Kyoto Univ., Ser.2, No.1) , 120-133. Yamamoto, R. (1957), A dynamical theory of the microbarographic oscillations produced by explosion    of hydrogen bombs, J. Meteorol. Soc. Japan, 35, 32-40.                                  (田平 誠 − 愛知教育大学名誉教授) 5.地理座標と地磁気座標の相互変換のページの更新 地理座標と地磁気座標の相互変換のページ http://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/igrf/gggm/index-j.html で、1900年から2015年までの年指定が可能となったほか、南緯や西経での位置指定や、2010年固定ですが 地図で指定することもできるようになりました。  なお、標高は0m (地表) 固定ですが、標高による地理座標と地心座標との差は小さいため、地表付近では 殆ど差ははないものと思われます。 <図1:地理座標と地磁気座標の相互変換のページパラメータ入力画面>        < 図2:変換結果出力画面>