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地磁気センターニュース


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 地磁気世界資料解析センター News No.100   2006年11月30日
 
 
 
 
1.新着地磁気データ
 
    前回ニュース(2006年9月28日発行, No.99)以降入手、または、当センターで入力したデータの
うち、主なものは以下のとおりです。オンライン利用データの詳細は
(http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/catmap/index-j.html) を、観測所名の省略記号等については、観測所カ
タログ(http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/catmap/obs-j.html) をご参照ください。
また、先週の新着オンライン利用可データは、
  (http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/wdc/onnew/onnew-j.html)で御覧になれ、2ヶ月前までさかのぼること
 もできます。
 
 
     (1)Newly Arrived Data
          1)Annual Reports and etc.
              NGK (Sept., 2006), AQU (2005), SOD, OUJ, HAN, NUR (Aug., 2006)
 
          2)Kp index: (http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/kp/index-j.html)
             Sept.- Oct., 2006
 
     (2)Dst指数、AE指数とASY/SYM指数
         2006年10月分までの1分値ASY/SYM指数を算出し、ホームページに載せました
       (http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/aeasy/index-j.html)。Quick-Look AE指数とQuick Look Dst
           指数についてはホームページをご参照下さい。
 
     (3)Provisional Geomagnetic Data Plots について
      世界各地で測定された地磁気1分値データをプロットしたProvisional Geomagnetic Data Plotの
           2006年  6月までのポストスクリプトファイルが利用できるようになりました。図の形式は
      2日分が1画面です。(ftp://swdcftp.kugi.kyoto-u.ac.jp/data/pplot)。
 
 
 
2.QL-AE指数ディジタル値の公開について 
 
   オーロラ帯を流れる電流のモニターとして準実時間で算出され、当センターからプロット図が公開されています
QL-AE指数につきましては、ディジタル値を利用したいという要望が非常に強くありますので、
今回、http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/aeasy/index-j.htmlから、 Quick-Look AE指数のディジタル値もダウンロード
できるようにいたしました。Quick-Look AE 指数は、オーロラ帯地磁気擾乱の準実時間モニターとして開発されました
ので、観測所から自動的に送信されたデータのチェックはほとんど無しで算出されています。また、欠測観測所があっても
算出されています。そのため、スパイクノイズ等も含まれますし、欠測観測所付近の磁場変動が反映されていない場合も
あります。また、新たなデータが送信されてきた場合には、それが追加あるいは元のデータが修正され、指数の値が変化
します。しかし、ディジタル値を利用したいという要望が非常に多いので、 こちらのページから、 Quick-LookAE 指数の
ディジタル値もダウンロードできるようにいたしました。そこでご使用にあたっては、上記の点十分注意していただくとともに、
使われている観測所数のチェックには、
 http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/aedir/ae1/quick.html も参照していただくようお願いします。また、論文等に
ご使用の場合は、 Quick-Look バージョンであることを明記願います。現在は1997年から2006年10月まで利用可能
で、今後はある程度指数が安定化次第追加される予定です。なお、混乱を避けるため、ダウンロードした指数の再配
布はしないでください。
 
 
 
3.前田坦名誉教授(初代地磁気世界資料解析センター長) "IGY Gold Club Member" に認定 
 
    1957−1958年にかけて実施され、数々の画期的成果を上げた国際地球観測年 (IGY) から来年で50年になるのを
記念して、いくつかの国際協同計画が進められている。その中の一つであるIHY (International Heliophisical Year)
 http://ihy2007.org/history/history.shtml では、IGY当時、この事業に直接関わった人たちに、IGYの思い出、記録等を
提供していただき、記録にとどめるとともに、その活動を讃えるため、『The IGY "Gold" Club』を設立し、活動参加の認定証と
バッジを贈呈している。当地磁気世界資料センターの初代センター長・前田坦京都大学名誉教授は、IGY当時、阿蘇火山
研究所や喜界島における皆既日食の観測等に従事されたので、今回、我が国では4人目の"IGY Gold Club Member"
 に認定された。
 
 
                                                    
                    
       < 認定証を手にされる前田坦名誉教授 >   <IGY当時の前田名誉教授: 別府地球物理研究施設玄関にて>
 
                          
 
      
 
 
 
4.国際地球観測年 (IGY) 50 周年を迎えて
 
   来年(2007) は、国際地球観測年から 50年目にあたり、国際太陽系観測年 (IHY), 国際ディジタル地球年
(eGY), その他各種の記念事業が予定されているようなので、ちょうど IGY の頃に大学院 (旧制)を終えて研究
生活を始めた経験から、資料センターに重点をおいて、歴史を振り返ってみたいと思う。
  
 
 人類は地球上で生まれ、100 万年以上にわたる長い年月を通じて自然に適応し、自然を利用する方法を学んで
きた。しかし、その大部分は生活に直結した技術的なことがらであって、生活の場である地球それ自身に関する関心
は、ここ数千年以内のことである。
 
  たとえば、方角を知るために磁石のような物が用いられたのは B.C. 2000 年ごろ、オーロラらしい現象に気づいた
のは B.C.1000 年ごろであり、B.C. 500 年ごろには地球は球形と考えられており、B.C.200 年ごろにはその
大きさが測定されている。その後、17-19 世紀になると調査.研究はより科学的となり、各種の観測.測定装置が工夫
され、多くの重要な事柄が明らかにされてきた。しかし、この頃までの観測.研究はほとんどが個別的なものであった。
 
 
  これに対して、いまから 120年あまり前に世界の科学者が、国境を越えて共同観測事業を計画.実施したことは
非常に画期的なできごとであり、その後の地球科学における国際協力のはしりとして重要な意味を持つことになった。
この事業は国際極年 (International Polar Year) とよばれ、1882-83 年 (明治15-16 年) 北極に重点を置いて
気象、地磁気、オーロラなどの観測が 11 ケ国の参加のもとに行われた。またこれと同時に中低緯度でも観測が
行われ、日本では東京で地磁気観測が開始された。
 
  このときの成果にもとづいて、研究者は 50年ごとに同様な国際共同観測を実施することを申し合わせた。それに
従って、第二回の国際極年が 1932-33 年 (昭和 7-8 年) に行われた。このときには 44 ケ国が参加し、わが国
では富士山頂での気象観測、豊原と阿蘇での地磁気観測が開始された。このうち阿蘇での地磁気観測は、京都大学
理学部 (長谷川研究室) が担当した。
  これらの国際共同観測の結果にもとづいて多くの研究成果が得られ、1919 年にスタートした国際地球物理学
連合 (IUGG) の3年ごとの総会で発表された。しかし残念なことに、第二次世界大戦のため、このような国際会議は
約10年間中断された。
 
 
  大戦後、再び研究者は国際会議を開いて、国際共同観測事業の計画について相談したが、前に申し合わせた
50年ごとではあまりに長すぎるので、半分 (25年) に縮めることとなり、1957-58 年 (昭和32-33年) に第三回目の
事業として、国際地球観測年 (International Geophysical Year; IGY) を実施することになった。
 このときは、もはや極地観測だけが重点ではなく、広く全世界にわたり、地球に関係するあらゆる分野 (太陽や宇
宙線なども) の観測を行うことになり、参加国は 67 ケ国、観測点は 4,000 にも及ぶ大規模なものとなった。日本
では、このときから南極観測が開始されたし、また従来からの地上観測に加えて、ロケットによる空間観測も行われる
ことになり、その後の地球科学の研究に新しい方向を示すものとして注目された。
 
 
  さらにもう一つ注目すべきことは、このような国際共同観測によって得られた莫大なデーターが、世界中の研究者
や研究機関によって容易に利用できて、しかも有効に活用されるために、世界資料センター (World Data Center;
 WDC) の設置が決まったことである。そして、米国おほびソ連 (今のロシア) には全分野のデーターを収集する
 WDC-A および WDC-B がそれぞれ設置され、第三のセンターとして分野別の WDC-C が、いくつかの国に
設置されることになった。このとき日本に設置された WDC-C は、地磁気 (京大理学部)、大気光 (東京天文台)、
電離層 (電波研究所)、宇宙線 (理化学研究所)、核放射 (気象庁) の五つであった。そしてその後、太陽電波
 
 
 (名大太陽地球環境研究所)、太陽地球活動 (宇宙科学研究所)、オーロラ (極地研究所) の三つが追加された。
京大理学部では、地球物理学教室の長谷川研究室が受け入れ態勢について検討を始めた。このセンターは文部省の
臨時事業費によって発足することになったため、建物も定員もついていなかったので、長谷川先生のご努力と、
当時の京大付属図書館長の大変なご苦労により、図書館内に二室と事務官一人を借用して、1958 年にようやく発足
できることになった。その他の分野の WDC-C についても同じように臨時事業費で運用されたようであるが、その詳細
については承知していない。
 
 
  この国際共同観測を契機として、地球物理学の各分野の研究は飛躍的な発展を遂げ、国際共同観測事業を合同で
行うことが困難となってきたので、その後は分野別の計画が実施されるようになった。例えば (1)固体地球分野では;
 上部マントル計画 (UMP), 地球力学計画 (GDP), 深海底掘削計画 (IPOD), リソスフェア探査計画 (DELP) など。
 (2)気圏.水圏分野では; 地球大気開発計画 (GARP), 気団変質観測計画 (AMTEX), モンスーン実験計画
(MONEX), 極域観測計画 (POLEX), 黒潮共同調査 (CSK), 国際海洋学10年計画 (IDOE), 国際水文学10年計画
](IHD), 世界気候計画 (WCP) など。 (3)超高層.大気圏外分野では; 太陽静穏期観測年 (IQSY), 太陽活動期
観測年 (IASY), 太陽地球環境国際監視計画 (MONSEE), 国際磁気圏観測計画 (IMS), 中層大気観測計画
(MAP) などである。
 
 
   これら数多くの共同観測計画の実施によって、莫大な観測データーが得られるが、その有効利用のためにも資料
センターの果たす役割が重要になる。それにもかかわらず、長い間不十分な設備と関係研究者の奉仕によって、
細々と維持されてきた。この問題は、日本学術会議の関係分野ごとに対策が議論されてきたが、私が関係していた
太陽地球系 (STP) 分野では、STP 国内委員会の資料センター小委員会が中心となって、センター施設の充実を
強く要望し、測地学審議会での検討を経て、やっと 1977 年ごろから建物や定員のついた施設が実現するように
なった。なお、このような地球物理 (および太陽.環境) 分野の世界資料センターは、国際学術連合会議 (ICSU)
に所属する、世界資料センターパネル (1968年発足) によって統括されており、私も初期には WDC-C を、その後
は IUGG を代表して、1985 年ごろまでパネルの Bureau member を務めた。
 
 
                                   (前田 坦・京都大学名誉教授)
 
 
 
5.杉浦正久・元センター長 長谷川・永田賞を受賞
 
    11月6日の第120回地球電磁気・地球惑星圏学会総会において、学問の成長を先導する顕著な業績をあげる
とともに、学会の発展にかかわる事業に功労のあった地球電磁気・地球惑星圏学会会員を讃える長谷川・永田賞
が、杉浦正久・元センター長に授与されました。
 
 地磁気擾乱指数として非常によく使われるAE (AuroralElectrojet) 指数およびDst指数を考案し、長期にわたり
算出提供を行ってきたこと、米国NASAにおいて、人工衛星 (OGO衛星やDynamiceExplorer衛星等) による磁場
観測を行い、磁気圏内の磁場・電流構造の解明に大きな寄与をしたことなど、数多くの重要な貢献をしたことを評価
したことが、本蔵学会会長により報告され、体調の都合で出席されなかった杉浦正久・元センター長に代わりに、杉浦
桂子夫人が賞状および記念のメダルを受け取られました。                             
 
 
 
6.能勢正仁・センター助手 大林奨励賞を受賞
 
 
                  
               <表彰台に立つ能勢正仁助手と本蔵学会会長>
 
 
    11月6日の第120回地球電磁気・地球惑星圏学会総会において、若手会員の中で独創的な成果を出し、さらに
将来における発展が充分期待できる研究を推進している者に贈られる大林奨励賞が能勢正仁・当センター助手に授与
されました。
 
 受賞のタイトルは、『ウエーブレット関数を用いたPi2脈動の自動検出手法の開発とその応用研究』で、研究成果は
もちろんのこと、学界への貢献と研究の広がりおよび将来性が高く評価されたことが、学会会長より報告されました。
 
 
 
7.国際CODATA会議参加報告
 
   第20回国際CODATA (Committee on Data for Science and Technology) 会議が10月23日から25日まで北京で
開催された。 CODATAは、国際学術連合 (ICSU) の下にある委員会で、1966年に設立され、科学技術分野の広範な
データおよびそれに関する問題を取り扱ってきた。身近な例では、光の速さや電子、陽子の質量などの物理定数の国際的
取り決めと精密化が挙げられる。
 
 
                  
                     < 開会の挨拶をする岩田修一CODATA会長>
 
 
  国際地球観測年 (IGY, 1957-1958) に設立された世界資料センター (WDC) 組織も国際学術連合 (ICSU) の
下にあるWDCパネルの監督の下に各国の様々な機関により運営され、主として地球科学関係のデータの交換を行って
きたので両者は本来近い関係にあるべきにもかかわらず、これまであまり交流がなかったようである。今回、国際ディジタル
地球年 (eGY, electronic Geophysical Year, 2007-2008) や地球科学関係のセッションがいくつか設けられたこともあり、
相当数のWDC関係者が参加した。会議は北京市内のホテルで開催され、41ヶ国から、計723名 (外国人280名) が
参加する盛況で、日本からは、地球電磁気学・超高層物理学関係者だけでも10名余りが参加した。
 
  当センターからは家森が参加し、"Japanese Activities for eGY" (T. Iyemori and Japanese eGY committee)
および"Data Service at the World Data Center for Geomagnetism, Kyoto" (T. Iyemori, M. Takeda,
M. Nose and Y. Odagi ) の2件の口頭発表と、eGY関係者が集まったビジネスミーティングに参加、我が国の
活動状況の報告を行った。また、米国、ロシアおよび中国のWDC関係者と個別に情報交換を行った。
 
   基調講演や総会、授賞式以外は、主に3会場に分かれて広範な議論が行われたが、参加して特に印象に残った
のは、分野間 (inter-disciplinary) のデータ交換をどのようにするかということに関する講演が非常に多かったこと
で、最近の科学の一つの大きな潮流を反映していると思われる。また、今回はeGY,WDC関係者が大挙して参加した
ため、地球科学関係のデータに関する発表を多く聴くことができ、今後のWDCの運営やeGYの推進に役立ついろ
いろな情報を収集することができた。
  次回国際CODATA会議は、2008年の5月または9月に、ウクライナ共和国のキエフ市で開催されることが決まった。
 
 
  
 
 
 帰国する日の午前中は時間があったので、北京市内にある梅原龍三郎の絵画で有名な天壇公園(写真上左)を
見学した。その理由は、北京市の地図を見ると、建物を結ぶ参道(写真上右)が真北から西に2−3度ずれているように
見えたからで、二条城のお堀と同様、コンパスを使って方向を決めたかもしれないと思ったからである。持ち合わせた
旅行用のコンパスで調べたところ、誤差の範囲で参道の方向とコンパスの向きが一致した。帰国後調べたところ、方向が
真北からずれていることは既に多くの人が注目していて、15世紀初頭に建設されたこの建物は、当時の皇帝が夏の
間すごしたもう一つの都の方向を指しているという説が有力なようである。
 
 私が気になったのは、国際標準磁場モデル(IGRF)で計算すると、現在の北京での偏角は日本と同様、西に6−7度で、
地図上の2−3度とは大きく異なるにもかかわらず、私が使ったコンパスでは(地図を信用する限り)偏角が2−3度と出た
ことである。もしこれが事実だとすると、大きな磁気異常があることになる。おそらく私が持参した旅行用の小さなコンパス
による測定誤差であると思われるが、次回北京を訪れる機会があれば、より正確に測定できる道具(例えばコンパス
グラス)を持参しなければならないと思った。
 
 
                                          (家森俊彦)