News and Announcements [in Japanese]
地磁気センターニュース


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 地磁気世界資料解析センター News No.121     2010年5月26日
 
 
 
1.新着地磁気データ
 
    前回ニュース(2010年3月31日発行, No.120)以降入手、または、当センターで入力したデータのうち、
オンラインデータ以外の主なものは以下のとおりです。
 オンライン利用データの詳細は (http://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/catmap/index-j.html) を、観測所名
の省略記号等については、観測所カタログ (http://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/catmap/obs-j.html) をご参照
ください。
 また、先週の新着オンライン利用可データは、(http://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/wdc/onnew/onnew-j.html)
で御覧になれ、ほぼ2ヶ月前までさかのぼることもできます。
 
      Newly Arrived Data(off-line)
 
        (1)Annual Reports and etc.
              SOD, OUJ, HAN, NUK (Jun. - Aug., 2009),  NGK (Mar., 2010)
 
        (2)Kp index: (http://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/kp/index-j.html)
              Mar. - Apr., 2010
 
 
 
2.AE指数とASY/SYM指数
 
   2010年4月分までの1分値ASY/SYM指数を算出し、ホームページに載せました
 (http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/aeasy/index-j.html)。
 
 
 
3.100年ぶりの静かな地磁気活動期と通信衛星GALAXY-15の漂流事故
 
   100年ぶりといわれる極めて静かな太陽および地磁気活動の状態がここ数年続いています。特に昨年は、
図1に示すように、地磁気aa指数 (注 1) で見ると、約100年前の20世紀初頭 (1912-13年頃) と同程度の
静かな状態になっていました。
 
   
   < 図1:地磁気aa指数年平均値と太陽黒点相対数年平均値との比較。 >
          昨年のaa指数は1913年とほぼ同じレベルまで下がったことがわかる。
 
 
  ところが今年に入って、太陽活動がやや活発になり、小さめの磁気嵐が何度か発生するようになっています。
その矢先、先日、GALAXY-15という大型の通信衛星が故障し、静止軌道上を漂流し始めたことが、我が国のマス
コミでも報道されました。これに関し、米国のJoe Allen博士から当センターに、「GALAXY-15の故障と磁気嵐、
特に、サブストームの発生のタイミングが良くあっているので、京都大学で算出している地磁気AE (Auroral
Electrojet) 指数を使った記事を書きます」という連絡がありました。
 
 博士によると、衛星が故障したのは4月5日9時49分UT (Universal Time, グリニッジ標準時とほぼ同じ) との
ことで、AE指数はその直前に非常に大きく変動していることが図2から見て取ることができます。
 
 
   
   < 図2:GALAXY-15が故障した4月5日のAE (オーロラジェット電流) 指数。 >
           故障した9時49分の直前に、AL指数で-2000nTにおよぶ強い磁場変動を発生
               させた西向き電流が、オーロラ帯を流れたことがわかる。このときに、おそ
           らく大量の高エネルギー荷電粒子が人工衛星の周辺に流入したと推測される。
 
 
 図3は、同じく当センターで算出している中緯度地磁気ASY/SYM指数です。この指数のうち、SYM-H指数
 (あるいは同じく当センターで算出しているDst指数) で表現される磁気嵐の規模としてはそれほど大きな
ものではなく、むしろ小さなものでしたが、非常に強い電流がオーロラ帯に流れ込んだことがASY-D指数から
推定されます。Joe Allen博士が指摘するように、この現象の発生と人工衛星の故障のタイミングが非常によく
一致していることは、今回の衛星の故障が、大きなサブストーム発生に伴う大量の荷電粒子の流入による人工
衛星の強い帯電あるいは放電が原因であることを強く示唆しています。
 
 
   
   < 図3:4月5日と6日の中緯度地磁気ASY/SYM指数。>
                SYM-H指数 (下段太線) でみた磁気嵐は小さなものであるが、ASY-D指数(上段上の
         トレース)からは、非常に強い電流が極域の電離層に流れ込んだことが推測される。
 
 
  まだ当分、静かな太陽および地磁気活動の状態は続くと予想されますが、今回の出来事は、宇宙環境をモニ
ターする地磁気指数 (AEおよびDst指数) を国内外諸機関 (注 2) との協力の下、(準) リアルタイムで算出・
提供している当センターには、よりリアルタイムに近づける必要性を示すとともに、多数の人工衛星を運用
している各国の宇宙機関にとっては、100年ぶりの静かな太陽と穏やかな地磁気活動の状態とはいえ、油断大敵
であることを示す例となりました。
 
 

(注 1) http://isgi.latmos.ipsl.fr/des_aa.htm 参照 (注 2) 情報通信研究機構(NICT)、気象庁地磁気観測所、ロシア北極南極研究所、JHU/APL, USGS・他、各国の  地磁気観測所 4.「超高層大気長期変動の全球地上ネットワーク観測・研究」(略称:IUGONET)プロジェクト報告   日本の5機関7組織が参加しており、地磁気センターも参加しているIUGONETでは、全地球に展開して いる磁力計、レーダー、光学観測装置、太陽望遠鏡等を用いた超高層大気の地上観測ネットワークにおい て、これまで長年にわたって蓄積された多種多様な観測データに関するメタデータ・データベースシステム を構築しています。  「地磁気世界資料解析センター News No.120」発行後のIUGONETの活動の中から、2010年3月23日に行わ れた京都大学附属図書館情報管理課電子情報掛の方々とのディスカッションについて、報告させて頂きます。 IUGONETが現在構築中のメタデータ・データベースは、MITによって作成されたDSpaceというフリーソフトを 元にカスタマイズを行っています。他方、京都大学附属図書館において既に運用されている学術情報リポジ トリKURENAIもまたDSpaceを採用しています。そこで、DSpaceの運用を含めた様々なノウハウを得るため、 当センターの小山幸伸が図書館を訪問しました。  1957年に京都大学附属図書館に開設された、国際地球観測地磁気世界資料室を起源として持つ地磁気セン ターは、図書館業務と似たサービスが多々あり、書誌や電子化書誌管理の専門家である方々から学ぶべきこと が多々あることを実感しました。今回の図書館訪問の様に、様々な分野の方々との交流が「学際的な研究」を 掲げているIUGONETプロジェクトにとって重要なことであると再認識しました。  最後に、2010年に入り新たに開発メンバーが増える等IUGONETの活動は益々活発になっております。 2011年度のメタデータ・データベース公開に先立ち、ユーザー獲得の為の広報活動にも力を入れつつあります。 本紙面で書ききれなかった話題も多々ありますので、ホームページ (http://www.iugonet.org/) の進捗状況 にアクセスして頂ければ幸いです。                                             (小山幸伸)        < IUGONETパンフレットの表紙 > 5.2010年1-4月のkp指数図表   2010年4月までのKp指数図表 (Bartels musical diagram) を下に示します。オリジナルは http://www-app3.gfz-potsdam.de/kp_index/definitive.html の下にあります。 Kp指数の数値 (1932年以降) 、及び1990年以降のKp指数図表は http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/kp/index-j.html からご利用になれます。 最新のKp指数は原則として翌月半ばには利用可能となります。     6.世界データセンター(WDC)から世界データシステム(WDS)へ   1957-58年に実施された国際地球観測年(IGY)において、主として地球観測データの保全と利用への 対応を目的としたデータセンター組織として、ICSU(国際科学会議)のもとにWorld Data Center (世界 データセンター、略称WDC)が設置されたことは、既に多くの方々が御存じのことと思う。現時点において は、全世界で約50ヶ所のデータセンターがWDCとして認定されており、我が国では、京都大学の地磁気WDC の他に、電離層(情報通信研究機構)、宇宙線(名古屋大学太陽地球環境研究所)、大気光(国立天文台)、 太陽電波(国立天文台)、オーロラ(国立極地研究所)、科学衛星(宇宙航空研究開発機構)の7ヶ所のWDC が活動している(括弧内は所属機関)。WDCでは観測データを人類共通の財産と位置づけ、「保有するすべて のデータの、制限なき公開(Full and Open Access)」を理念とし、当初は地球科学分野のデータセンター が主体であったが、最近では生態系や人間活動など、地球環境科学に関連したデータを扱うWDCも設置されて いる。WDCについては、WDC組織の米国ホームページ(http://www.ngdc.noaa.gov/wdc/)を参照されたい。  さてIGY以来半世紀にわたる歴史を持つWDC組織も、地球環境研究へのシフトなど重点研究分野の変化に加え て、パソコンやネットワークの急速な普及などを受け、この数年の間にICSUが保有するデータ関連組織の全面 的な見直しが行われた。その過程において、個々のWDCがデータの保全や流通に貢献してきたことは高く評価 されたものの、「システムとしての」WDC組織の運用への取り組みが不十分であることなどの問題点が指摘され た。そして、やはりIGYを期にICSUのもとに設置され、データの解析から得られる種々の指数などの提供を行っ てきたFAGS (Federation of Astronomical and Geophysical Data Analysis Services) とWDCとを統合して、 新たにWorld Data System (世界データシステム、略称WDS)) を設置することが、2009年10月におけるICSU総会 で決定された。現在はICSUのWDS科学組織委員会において、WDSの運用に関する具体的な議論が行われており、 これと並行してWDSに関心を持つデータセンター等の登録が進められている (登録用ページ:http://wds.geolinks.org/)。 WDSの理念は、次に示すWDSの「宣伝ビラ」にあるように、「品質管理されたデータの長期的保全と提供に より、ICSUが進める事業を支援する」、というものであり、このビラには以下のようなWDSの目標も掲げら れている。  ● 科学研究に関わるデータや情報の国際的共有の促進  ● 長期にわたるデータ保全体勢の確立  ● データの標準化やデータ利用における合意の形成  ● 効果的データ利用に資する環境の提供  ● 品質管理されたデータや情報を提供する体勢の確保       現在稼働中のWDCは、引き続きWDSの中核として活動を続けることが期待されているが、ICSUでは これまでWDCに参加していなかったデータセンターにも、広く加入を呼びかけており、WDSが自然科学系 だけでなく、人文・社会科学系のデータセンターも含む、包括的なデータセンター組織となる方向へ進 んでいる。しかしその場合は、如何にしてWDSを、その名の通り「システム」として機能させるか、とい う課題に直面することとなり、対処の仕方によっては、「単なるデータセンターの寄り集まり」のレベル に留まってしまいかねない。WDSを成功させるポイントの一つとして、半世紀にわたって培ってきたWDC 活動の実績と経験を活かしつつ、最新の情報科学的手法の導入により、多様なデータの分野横断的な利用 を可能とするシステムの構築があると思われるが、そのためにはデータセンター担当者だけでなく、データ ユーザとなる研究者や、データの取り扱いに関心を持つ情報科学研究者の協力体勢の確立が不可欠である。 そこでICSUのWDS科学組織委員会では、2011年に「第一回ICSU世界データシステム会議」を京都市で開催 することを決定し、京都大学の地磁気WDCが中心となって、準備が進められているところである。  我が国のWDCは、これまで太陽地球系物理学に関連した分野のみに限られていたが、このシンポジウムを 契機として、更に地球環境科学分野のデータセンターのWDSへの加盟を促進するとともに、我が国のデータ センター間の連携を強化して、WDSを中心とした国際的なデータプロジェクトに貢献して行きたい。                       (渡邉 堯 − 名古屋大学太陽地球環境研究所宇宙線WDC                         ICSU世界データシステム科学組織委員会委員)