ガウスと全球磁場モデル


 現在、科学がこれほども世間から注目されていることについては、その多くがア レキサンダー・フォン・フンボルト (Alexander Von Humboldt、1769-1859)のおかげです。フンボルトは若いころ南アメリカのジャングルを探検していましたが、人生の大半はパリで過ごし、そ こで自然科学の成果を世間に対して啓蒙し続けました。晩年、フンボルトは科学の知識をまとめて「コスモス」という記念碑的な大作を著しています。


  C.F. ガウス

 1828年にフンボルトは当時の大数学者であったドイツ人、 カール・フリードリッヒ・ガウス(Carl Friedrich Gauss)と会った際、その才能を磁場のなぞの解明に使うべきだと進言しました。 そのため、ガウスとその同僚のウェーバーは、磁場を研究する施設を設立し、 世界で初めての電磁式電信機や他のいろいろなものを開発しました。

 それまでは、コンパスや水平軸に取り付けられて上下方向に針が 動く「伏角計」によって、磁場の方向は割合正確に計測され ていました。しかし、磁場の強さを測るのにはどうしたらいいのでしょうか?ガウスは補助磁石を使って磁場の強さを測る巧妙な方法を開発しま した。これは今日では学部学生の実験実習によく使われています。

 ガウスは、天体力学において重力の解析に使われる手法も知っていましたので、 その方法を地球周辺の磁力、すなわちその「磁場」を記述することに応用しまし た。この方法は現在でも使われています。この方法においては、磁場は、強さが距 離 r に対して1/r3で弱くなっていく ような「双極子」(棒磁石のように磁極が2つあるもの)、強さが1/r4で弱くなっていくような「4重極 子」、強さが1/r5で弱くなっていくような「8重極子」などの無限の場の重ねあわせとして表現されます。重力場においては、強さ が1/r2で弱く なっていくような単独の「単極子」場がありますが、磁場においては、そのような単極子はいまだ発見されておらず、常に(最低でも)2つの極が対になって現 れます。


 地球の磁場をよりよく観測または記述するためのこのような新技術は、 世界中で観測が行われることにつながりました。ガウスとウェーバー は観測所群を作り上げるために「磁気協会(Magnetic Union)」を組織し、フンボルトはシベリアをまたぐ観測所網の設立にロシア皇帝の協力を得ました。その後、さらに強力な援助が大英帝国によってもたら される ことになりました。エドワード・サビーナ卿(Sir Edward Sabine)主導の「磁気十字軍」がカナダからタスマニア(当時は「バン・ディーメンズ・ランド」と呼ばれていました)にわたって観測所を設置したので す。この巨大地磁気観測網は、初めて地球磁場のモデル作成を可能にしただけでなく、磁気嵐の全世界的な性質をも明らかにしたのです。

 今日の磁場モデルのいくつかは人工衛星による観測に基づいて作成されています。 それらを150年以上前にガウスによって作成されたモデ ル、およびそれ以降に作られた色々なモデ ルと比較してみましょう。するとひとつの傾向が明らかになってきます。それは、主要な「双極子」場が1世紀あたり約5%の割合で減少してい る(1970年以降はその減少の割合が強くなっているようです)という傾向です。この減少傾向がずっと続けば、今から1500-2000年後には地球の磁 極の向きは反転するかもしれないと言う人もいます。でも、実際にはこの減少傾向がずっと続くとは考えられませんので、これは現実的ではあり ません。

 地球の磁場が消えてしまうことはないでしょう。なぜなら、双曲子場が弱くなる ときには他の成分(4重極子など)が強くなるでしょうし、 ネッド・ベントン(Ned Benton)が晩年示したように磁場エネルギーの総量はほとんど変わらないと考えられるからです。しかしながら、コンパスが指す向きは変わるでしょう。 岩石に「閉じ込められた磁気」によれば、こうしたことは地質学的時間の間には実際に何度も起こったことで、最近のものは約70万年前という ことが分かっています。


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原著者:   Dr. David P. Stern
原稿更新日 2001年11月25日